5 – 未来永却「高速道路無料解放」は来ない

未来永劫「高速道路無料解放」は来ない(1)

公団首脳が「無料解放する」と言ってたのに…

今から三年ほど前の昭和六十年秋に日本道路公団を取材した時のことである。
建設費償還が終わった有料道路を順次無料解放する計画について、公団首脳が私にはっ きりと説明した。

「これまでに全国で四十八の有料道路が償還を完了し、国道や地方道として一般に無料解 放されました。これからだって、京葉道路が昭和六十五年に三十年の有料期間終了で無料 解放されるのを初め、箱根新道が六十七年に、第三京浜が六十九年にそれぞれ無料解放さ れる予定です」

有料道路の個別償還方式が四十七年にプール制料金の導入で一括計算方式に改められた とはいっても、それは東名・名神や東北自動車道などの主要高速自動車国道に限ったこと。 個別に独立した有料道路まで、みんなまとめてプール計算するわけではないとの説明で あった。

以来、私の頭のなかには京葉道路、第三京浜などユーザーになじみの深い、従ってまた 使用頻度の高い有料道路の無料解放時期到来が「あと五年」「あと二年」と強い関心とし て残された。これまでに無料解放されたのは、ほとんど全てがローカルの、それも距離が 四〜五kmと短い道路ばかりである。無料解放が世間的な注目を集めもしなかった。
しかし、第三京浜や京葉道路、箱根新道などが通行料を払わずに利用できるようになる とすれば、ニュース性は高い。影響も大きい。料金所が無用となって、ある日撤去作業が 行なわれると想像するだけで楽しくなる。
「道路は有料」はあくまでも仮の姿。原則はやはり「道路は無料」。国や公団もこの原則 を守ろうとしている、誠実に努力中であるとユーザーにわからせ、理解と支持を深めるう えでも大いに意味があると考えた。

第三京浜は二百七十八億円をかけて三十九年に開通。同じく京葉道路も八百二十八億円 の事業費で三十五年から四十四年にかけて開通。料金徴収期間の最終リミットが、第三京 浜の場合で「昭和六十九年十月五日まで」、京葉道路は「昭和六十五年四月二十八日まで」 と当時の日本道路公団の公式資料にも、はっきりと記載されてある。
約束が守られる限り、無料解放の日は刻々と迫りつつある。あと一年半ほどで、まず京 葉道路が、三年半後に箱根新道、さらにその翌年には第三京浜が一般道路入りする。

裏切られた無料解放

ところがどうだろう。道路公団を取材した二年後の昭和六十二年八月末、一部の新聞に 驚くべき内容の記事が四段の地味な扱いで実にあっさりと、こう掲載された。

「三路線、値上げに布石」
「第三京浜・横浜新道・横浜横須賀道路」
「道路公団・料金プール制導入へ」

との三本見出しのもと、まるで事務手続き上、そうするのが当然であるかのような記述 が続く。

「日本道路公団は(八月)二十九日、東京都、神奈川県下を走る第三京浜国道、横浜新道、 横浜横須賀道路の三路線を今年度中に一元管理下に置き、値上げにつながる料金プール制 を導入する方針を明らかにした。東京、千葉を結ぶ京葉道路と千葉東金道路も来年度に導 入する」「無料解放を目前にした路線で、複数路線を一体運営する料金プール制に変更するのは、 拡充工事資金を確保するためで、道路審議会の答申に従ったもの。すでに昨年九月、北九 州道路と北九州直方道路で実施、今回は第二弾となる」

記事を読みながら、私は猛然と腹が立った。記事の書きかたが、まるでピント外れでは ないか。既定方針どおりとしているが、もし既定方針を言うならば、数年後に無料解放さ れることこそ、既定方針ではないか。約束を破って、ユーザーを騙し、有料制続行を企む 道路公団も怪しからんが、公団発表を鵜呑みにしてインチキ記事を書く記者たちの不勉強 ぶりも許しがたい。

半ば信じられない思いで、何度も記事を読み直した。「おかしい」「ずるい」「やりかた が汚ない」との批判的記述はどこにもなかった。道路公団が当然のことを事務的に進めて いるかの如き書きようである。
期待が大きかっただけに、失望もまた強かった。こんなインチキがまかり通ってよいの かとの思いであった。
「方針を明らかにした」とあるので、反対解釈すれば、まだ正式に決まったわけではない のだろう。決定以前には、無料解放時期大幅延長の是非について、もっと議論が沸騰する に違いない。既定方針がそう簡単に変更されていいはずはない。もめるのは、これからだ。 これはユーザーの反応を確かめるために、道路公団と一部の担当記者たちがグルになって の観測気球(アドバルーン)的記事であるかもしれないと思い返した。

その後、続報がどう伝えられたか、新聞記事は丹念に読むほうであるけれど、私には気 がつかなかった。全く報じられなかったか、報じられたとしても極めて目立たない扱い だったのだろう。「今年度中に一元管理下」との一報であったが、今年度中とは六十三年 三月三十一日までのこと。さて、どういう結論が出たか、新聞報道を信用せず、第三京浜 の六十九年の無料解放は、それこそ「既定方針」として私の意識のなかに定着した。

知らぬ間に既成事実を積み上げる

無料解放延期の記事に再び接したのは、ほぼ一年後の六十三年七月十三日付け朝日新聞 朝刊である。

「接続道路の償還で料金負担かなわぬ」
「京葉道路“プール制”法廷に」
「無料化、七年遅れる」
「考える会・認可取り消し要求」

とタテヨコ四つの見出しがついた社会面トップ記事である。
「東京や千葉などの運転手や一般ドライバー約四百人でつくる“道路交通問題を考える 会”(谷川寿光代表)が料金徴収期間延長の認可を建設省が取り消すよう、(七月)十五日 にも東京地裁に提訴する」ことを伝えるもの。それなりにわかりやすくまとめられてあっ た。

ただ、ここでも驚いたのは、知らぬ間に既成事実の積み重ねがどんどん進んでいると私 たちにやっと気付かせる以下の記述である。

「公団は今年三月、建設省の認可を受けて、京葉道路と東金道路の二道路のプール制を導 入」
「これまでに北九州道路・北九州直方道路、第三京浜・横浜新道・横浜横頭賀道路の二ヵ 所で施行されている」

認可、導入、施行と過去の行政行為が淡々と書かれるけれども、それぞれの時点できち んと報道されたのであろうか。いつ認可され、導入され、施行されたのか。ユーザー、読 者には肝心なことが、その時点、その時点で少しも知らされないまま、既成事実だけが先 行する。
第三京浜の無料解放延期も、どうやら正式決定したらしい。いったい、いつ認可・施行 されたのやら、第三京浜と横浜新道、横浜横須賀道路の三道路を常用する私にも、さっぱ り気がつかなかった。「お知らせ」のパンフレットを渡された覚えはない。マスコミで延 期の是非を問うべく、目立つように報道されることもなかった。

三つの道路が一元管理下に置かれ、料金プール制に変更されたと知りながら利用する ユーザーが、一万人のうち一人でもいるだろうか。道路マップを見ればおわかりのように、 三本の道路は、本来、別々の路線である。第三京浜は開通してすでに二十五年ほどになる 古い有料道路である。東京と横浜の間の十六・一kmをつなぎ、通行料は小型車で百五十円。 一般道の一国(一号国道)と二国(第二国道)しかなかった時に誕生して以来、ユーザー からどれほど便利がられ、愛用されたか。東名高速や首都高横浜線の開通により、京浜 ルートの横綱格ではなくなったものの、料金の安さや渋滞の少なさでは今でも利用価値の 高い道路である。

横浜新道は、もっと歴史が古く、開通後三十年になる。新道という名称がふさわしくな いほどの旧道。建設費償還はとっくの昔に終了した。百円の通行料を徴収する料金所は戸 塚区側の一方所にしかない。途中のランプでの乗降はフリーパス。実質的にはすでに無料 道路化している。
横浜横須賀道路は登場して日の浅い新顔である。部分開通して九年。今もまだ完成に至 らず、延長工事中である。
生い立ちの異なる三つの道路を一元管理すること自体が、理屈に合わない。おじいさん と幼女との結婚を強行させるようなものだ。
管理一元化、プール料金制をこれらの道路にこっそりと導入する際、料金を改定してい れば、利用者は制度変更におかしいと気がつく。無茶な一元化に反発・反対したはずだ。 日本道路公団が悪賢いのは、一元化の際に料金体系をいじらず、まず既成事実としての管 理一元化を先行させることである。

北九州、千葉の場合も同じことが言える。まさか料金計算が一緒になったとは知らずに 利用者が従来と同じ金額の通行料を支払う。何ヵ月とか何年とか経ってから、「実はこう いうことになっておりました」と変更の事後了承を求めるにも等しい行為がまかりとおる。 それも目立たないように地域ごとに一つ一つ積み重ねつつあるのだ。

国民への告知は”官報”のみ

日本道路公団の広報担当責任者は、そのカラクリを「官報による告知」という説明でこ と足れりと主張して、こう語る。

「通行料を改定する以外にも、償還期間を延長する例は珍しくありませんからね。公団と しては法律の定めどおり、その都度、官報に発表してある。決して国民の皆さんに隠し、 こっそりとやっているわけではありません。官報をご覧になれば、北九州道路や第三京浜、 京葉道路などの無料解放時期延長がちゃんと掲載済みとおわかりになるはずです」

官報とは大蔵省印刷局が日曜祭日を除く毎日発行するもの。法令、条約、予算、人事そ のほか政府が国民に周知させる義務を負う事項を事務的に羅列して掲載する。官公庁には 常置され、公開もされているが、役所に関連するビジネスをしている人以外、愛読する物 好きな国民は一人としていないだろう。第一、目にする機会がない。無味乾燥、意味不明 の法律用語、官庁用語がぎっしりと詰めこまれるだけ。解説記事があるわけでもない。一 般の人が読んでも、どういう意味があるか、さっぱりわからない。

三道路の無料解放時期延期がどう報じられたかを紹介しよう。
まず六十一年八月八日付けの官報。日本道路公団の宮繁護総裁名で「有料道路“北九州 道路”及び“北九州直方道路”の料金の額及び徴収期間の公告」と題する記事が掲載され た。わけのわからぬ細分規程が続くなかにあって、かろうじてそれらしいとわかるのは、 以下のくだりである。

「料金の徴収期間・北九州道路、昭和二十三年十月十七日から昭和七十九年十月十六日ま で。北九州直方道路、昭和五十四年三月八日から昭和七十九年十月十六日まで」

北九州道路の無料解放時期が六年後に迫っていたのを、プール料金制導入により大幅延 長したという記載は全くゼロ。新制度への変更が「九月一日から」とあるのみ。旧制度と どこがどう変わったかは一切説明されない。要するに、読んでも何もわからない。

国民に本当に知らせるべき事実は、四つある。第一に北九州の門司−小倉−八幡間を結 ぶ国道三号線沿いの北九州道路・二十五kmは無料解放時期が六年後の六十七年十月十六日 に迫った、第二に、他方で開通後七年にしかならない国道二〇〇号沿いの直方道路・七km 弱は、あと二十三年間(八十四年三月まで)料金徴収を必要とする、そこで第三に、古く て距離の長い北九州道路と、新しくて短い直方道路を一つの道路とみなして今後はプール 料金計算する、その結果、第四に、無料解放時期が古い道路は十二年間延長され、新しい 道路は逆に五年間短縮し、無料解放時期を十八年後の七十九年までとする、と最低限これ だけのことがわかりやすく説明されなければならないはずだ。

公団のやり方が汚ないのは、旧道路の通行料が(普通車で)五百円、新道路が同じく二 百円であることを見てもわかるように、ドル箱路線の旧道無料化を遅らせたいがために、 短距離の支線新道路を強引にくっつけたこと。さらに国民の反応をそっと調べるため延期 措置第一号に東京から遠く離れたローカル幹線道路を選んだことである。


未来永劫「高速道路無料解放」は来ない(2)

第三京浜の無料解放は一拠に十七年後に

無料解放の約束を破る重大違反であるのに、マスコミで全く問題にされなかった。反応 のなさを見て、シメシメと判断したのだろう。
今度は六十二年十二月二十八日の官報に「新年一月一日から下記のとおり変更します」 として第三京浜、横浜新道、横浜横須賀道路の管理一元化を同じ方式で「公告」した。記 述の中身は「料金の徴収期間」が三道路ともに「昭和八十八年十月二十七日まで」とある のみ。どの道路の料金徴収がどれだけ延長され、また逆に短縮されたかは、やはり、どこ をどう探しても書かれていない。
実際には第三京浜の無料化が十九年間、横浜新通が同じく七年間先にのばされ、見返り としての横浜横須賀道路の料金徴収期間短縮は、わずか十ヵ月間でしかない。これはもう 詐欺に等しい背信行為である。

三つの道路を一緒にする不合理さはすでに指摘したとおり。道路のおいたち、走行区間、 設置場所、利用状況のどれをとっても一つの道路とみなすのは無茶苦茶である。管理一元 化の狙いはただ一つ。第三京浜の無料化時期が七年後に迫ったけれど、無料化をほとんど 無期限に延長するとの意思表示である。今から二十五年後の約束実現を誰がもう一度信じ るものか。

日本道路公団は横浜新道の拡張工事、第三京浜に新インター設置、さらに未完成の横浜 横須賀道路の延長工事費負担の分散化等々を管理一元化の理由にあげる。これらの理由を 変更事情として認めてしまえば、新たな解放約束時期の昭和八十八年までには、どんな道 路事情の変更があるか、それこそ予測のつけようがない。二十五年の間には数多くの拡幅、 延長、インター増設に迫られるのが目に見えている。
その都度、無料解放時期がさらに何年も先に見送られると、今から予告するに等しい。 「三十年間での建設費償還、無料解放」という有料道路の建設と管理運営の大原則を、政 府や各種道路公団は、事実上、とっくの昔に放棄しているのだ。

横浜新道にしても、最初に供用開始されたのは昭和三十四年十月である。すでに二十九 年間が経過した。今回の官報公告により八十八年十月まで料金徴収が続くとなった。合計 すれば五十四年間。約束のほとんど倍近い長期間となる。しかも八十八年を限りに料金徴 収を絶対にやめるとの保証は何もない。約束がいかに当てにならないか、横浜新道の過去 の歴史がはっきりと物語る。
開通当初は二十年間で償還し、五十四年に無料解放と約束された。利用車両が多く、予 想外の料金収入で、いったんは解放時期を十年早めて四十四年に一般道路化と決めた(決 定は開通五年後の三十九年)はどである。ただし、すぐに空文と化した。それ以降は道路 の拡幅、延長、ジャンク(立体交差)工事などを理由に料金徴収期間の延長に次ぐ延長を 合計五回も繰り返す始末。延長の跡をたどれば、四十四年までの約束だったのが、四十八 年までとされ、さらに六年延びて五十四年に変更。無料化約束の実行を二年後に控えた五 十二年には、一挙に十年延ばして六十四年までお預け。ついで五十五年には八十一年まで のばすと十七年間の大幅延期追加。そして今回のプール制実施が五度目の延長工作となる。

これだけ「変更」という名のもとに同じウソをつかれ、次の六回目のウソがないと、ど うして信じることができようか。この四半世紀の間に、当初は解放時期の繰り上げ決意が あったにもかかわらず、年を追うにつれ、延期態度が功妙に、かつ図々しくなっていると 判明する。初めは遠慮がちの小幅延期だった。最近では悪びれた様子さえ感じられない。 大胆かつ大幅な延長の連続である。ユーザーである我々が詳しい事情を知らず、無関心で あるのをいいことに、徹底して手玉に取られ、利用されているといえよう。

本来は許しがたい約束違反。にもかかわらず、さしたる非難をあびないまま、料金徴収 期間の延長がトラブルなしにまかりとおったと今にしてわかるのだ。

京葉道路も無料解放を七年延長

三つ目の官報記載が六十三年三月二十四日。予告期間を省略し、翌日の「二十五日から 変更します」という悪乗りぶりである。年末とか年度末のドサクサにまぎれ、公団の“や らず、ぶったくり”作業が続く。今度は地方幹線の京葉道路(三十六・七km)と開通後十年 未満の枝線・千葉東金道路(十六km)とのドッキングである。

京葉道路が東京と千葉を結ぶ全部で六区間(料金は各区間ごとに百円=普通車=)の主 要道であるのに対し、東金道路は京葉の千葉東インターから太平洋側・九十九里浜に抜け る横断道の一部完成部分(料金は普通車で四百円)。片や無料解放時期が二年後に迫って いるのに対し、片やまだ二十一年余も料金徴収期間が残る成熟せざる道路である。
これまた本来は別々に料金算定すべき道路を強引に一元管理し、メインの京葉道路の無 料化をあと七年延ばすのが狙い。東金道路の一般道化は十二年間短縮されたものの、カラ 約束になるに決まっている。九十九里浜まで延長する工事があと十年以内にきっと着工さ れるに違いないからである。料金算定がそこでまた変更されるわけだ。

日本道路公団の約束違反をこうして点検していくと、その手口は、ほとんど知能犯的で あると判明する。
管理一元化が必ずしも無原則に行なわれるわけではない。北海道の道路と九州の道路を 一緒にプール計算する無謀なことは、いくら公団でもやれるわけがない。原則としては、 物理的に連結した道路であり、利用者の半数以上が二つの道路を連続して通行するといっ た縛りを一応はかけている。しかし、こんな縛り、原則は建設省や道路公団の屁理屈にか かると、いとも簡単に破られる。

第三京浜と横浜横須賀道路は五km以上も離れており、物理的に連結していない。その間 に横浜新道が存在することで、かろうじてつながるだけ。これを連結した道路と認めれば、 日本中のすべての道路が一本とみなしうる。しかも第三と横横の間に横浜新道の料金所は なく、ユーザー感覚としては一つにつながった連結道路とはどうしたって考えにくい。利 用者の半数以上が二つの道路を連続して通行することもありえない。大半は横浜市内に降 りたり、無料の保土ヶ谷バイパスを通って東名高速に抜ける。

京葉道路と東金道路の関係にしても同じである。京葉道路の車の流れの八、九割までが 東金に向かわず、千葉市内や以南の市原、木更津方向の京葉工業地帯へと南下する。道路 公団がどう屁理屈をつけるかといえば「いや、そうは言っても東金利用者の七割以上は京 葉道路へと流れる。半数以上連続通行の基準を十分に満たしているのです」とのこと。枝 線から本線に多くの車が流入するのは当然である。問題は本線から枝線へと抜ける車がど れだけあるか。本線利用者に対し、無関係の枝線建設費用負担を強制していいか。管理一 元化は受益者負担の原則を大きく踏み外すことになるのではないか。有料道路永遠化を防 ぐ歯止めは、いったいどこにあるか等々の疑問である。

京葉道路のユーザーを主体にした「道路交通問題を考える会」が、これらの疑問にから れ、「いい加減にしてくれ」と東京地裁に訴訟提起したのは、その意味で画期的である。
「道路は無料が原則」「建設費を通行料徴収で回収するのは過渡的措置であり、三十年以 内に償還を終了し、あとは無料解放する」との現行道路制度が守るべき根幹を問い直し、 再確認を迫る作業といえる。ユーザーが厳しい姿勢を示さない限り、道路管理側の無理、 屁理屈がまかり通って、道理が引っ込んだままの状況が今後ますます蔓延するに違いない。
三十年後の無料化の約束を勝手に反古にされる。騙されてばかりいながら、ユーザーが いつまでも黙っていることはない。ユーザーはもしかして騙されているとの意識さえ持た ないのではなかろうか。「道路は有料」と錯覚するユーザーがぶえれば、建設省や各道路 公団にとって、こんな好都合な話はないだろうけど……。

関係者のなかにも統一見解がない無料解放

その建設省や各道路公団首脳の間で有料道路を将来にわたってどうすべきかの統一見解 が確立されているわけでは、必ずしもない。
「無料解放の約束をいつまでも破り続けていいのか。守れないなら守れないとはっきりさ せるべきだ」
と何人もの関係者に問い詰めた際のやりとりをここに再録する。

ある公団首脳は有料道路の通行料を下水道使用料と比較して、プール制の正しさを説明 しようと試みた。

「下水道を一挙に普及させるわけにはいかない。人口密集地の中心部から整備を進め、周 辺部はどうしても後回しにされる。工事時期の遅くなった地域はど、建設費は高くつく。 もし下水道の使用料をプール清算しなければ、後回しにされた地区の人々は散々待たされ たあげくに中心部に比べ何倍もの使用料を払わされる。こういう不合理をなくすため、公 平な負担を保つのに料金プール計算制度は欠かせないのです。有料道路も同じであって、 路線ごとに料金を決めたり、区切ったりするのが、そもそもナンセンスです」

わかりやすいたとえ話である。一瞬は「なるはど。そのとおりだ」と受けとめた。しか し、すぐに別の疑問が生じた。

「下水道使用料は、いずれ無料になると約束されていない。永遠に有料制度が続く。有料 道路は償還が終われば、無料解放するとの法律の規定がある。現に料金徴収期間が各道路 ごとに定められているではないですか。なし崩し的に解放時期が先にのばされるのは、や はり問題だ」

下水道との比較では雄弁であった人が、ここでとたんに言葉を濁し始める。

人によって、その後の説明の仕方はさまざまである。

「道路が永遠に有料であっていいとの考えかたは、建設省内でも少ないのですよ。いつに なるかは、わからないにしても、いずれは無料解放されるべきだと我々も願っているので す」「首都公団のように地域限定の組織では、道路づくりがエンドレスではない。無料解放の 時期があり得る。しかし全国ネットの日本道路公団は工事終了の日が考えられない。ただ 料金を計算する際に、何年間で償還終了との基礎数字が必要になるので、便宜上三十年と しただけ。約束を破るとか、嘘をつく、騙すなどの批判は当たらない」「いや、首都公団だって東京線の現状ルートを維持するだけで年間に二百五十億円の管理 費がかかる。無料解放したら、この金をどう捻出するか。地元の東京都に負担しろと言っ ても応じないでしょう」「そもそも、道路整備特別措置法は、暫定措置ではない。“道路は有料”が臨時的な仮り の姿ではなく、特別措置として、有料の道路もある、ずっと続くと理解すべきだ」

統一見解がないだけに、曖昧なまま、無料解放時期がズルズルと先きのばしされていく しかない。いっそのこと、半永久的に有料制度が続くとはっきりさせ、その代わりに料金 値上げの上昇カーブを現状より大幅に緩めるほうがずっと明瞭である。

「どうすればいいかのコンセンサスはなかなか得られないでしょうね。三十年償還を倍の 六十年償還に改めたとしても、支払い利息がかさむばかりで、料金にそう好影響すること はない。不満や批判があっても、現行制度を維持するしかないのです」

説明の内容はさまざまであっても「三十年で償還。以後は無料解放」の看板に偽りがあ ることだけは、いよいよはっきりする。利用者は、やはり騙されているのだ。

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