第2信 われわれはどこから出発すべきでしょう そしてあなたのなすべきことは

6月15日韓国より商用で帰国しました。数ヶ月前のような貴公団の出迎えがないのが寂しいかぎりです。
飛行機のなかで非常に面白い本に出会いました。
『三菱商事最高経営会議Ｋ−プラン』という美里泰伸さんが書いた本です。
「Ｋ−プラン」という計画は、三菱商事の売上が商社中第5位に転落したため何とか7000人の従業員の心を引き締め、立直しをはかろうという計画です。
そして、いろいろ検討した結果「これでいこう」という意味でＫ−プランと名づけられました。
この本の中にこんな一節があります。
「こういう仕事をしたい。
そうすれば、会社はもうかる、という角度から議論してほしい。
そのさい、会社にはルールないものとして考えてほしい。
そして、やりたい仕事をやるために会社の制度が障害になっているなら、その制度を変えよう、という議論にしよう。」（209ページ）
これを貴公団と共に私たちが取り組んでいる問題に置きかえると、こうなります。
＜こういう道路にしたい。
そうすれば、われわれ（貴公団と利用者）は非常に助かる。
そして企業が繁栄すれば国は潤い、われわれの子孫に偉大な資産を残せるではないかという角度から議論しよう。
そのさい、国にはルールはないものと考えよう。
それをやるために、国の制度が障害となっているなら、
その制度を変えよう、という議論にしよう。＞

時々、貴公団に電話をさせていただいておりますが、今、“懸命に問題に取り組んでいる”とのこと、誠にご苦労様です。
われわれの問題は、前記のような立場で、原点に戻って考えなければならない問題なのです。
もし、この問題にかんする委員会などがあるのであれば、ぜひ一般利用者である私にも参加させていただきたいのです。
浅井理事長、あなたにこんな事を言うのは、“釈迦に説法”かもしれませんが、トップの仕事というのは、内に向かっての改革と外に向かっての仕事です。
あなたが任されている権限内での改革、これが内に向かっての仕事です。
あなたの権限外の仕事、これが外に向かっての改革です。
そして、その仕事の内容はすべて“安くて速く通行できる首都高速道路の実現”ということです。
もし、あなたが自分には何の権限もなく、それらのことは建設省、運輸省の仕事だ、というのであれば、はっきりいってあなたは首都高速道路公団理事長として誠に遺憾ながら無能であるといわざるをえません。
そのことによって、われわれの通行料金より支払われる月給116万円というあなたの報奨は放棄してもらわなければなりません。
ましてや2400万円の退職金（私の通行料金不足分1回100円の24万回分に当たります）はないものと考えていただかなければなりません。
いろいろご苦労なこととは思いますが、一つ大きな視野で考えていただきたいのです。
それに対しての協力はいかようにも惜しむものではありません。
1988年6月28日
フリーウェイクラブ 和合秀典
首都高速道路公団理事長 浅井新一郎殿

[天声人語]
いまは夢さめて、高速道路に対する不満の声が高まっている。
首都高速道路公団の値上げに対して、ある利用者は90回以上の不払いを続けた。
ある利用者は値上げの認可の取り消しを求める訴訟を起こした。
値上がり分にあたる100円玉1個を 一回だけ不払いにする、という新戦術をとる組織も現れた。
利用者の不満はこうだ。
0. 渋滞が多い。これでは高速でなくて低速だ。渋滞による損失ははかりしれない。
0. 鉄道は、遅れた場合に特急料金の払い戻しをするが、高速道路はそれをしない。
0. 利用者の意見も聞かずに値上げをする。
0. 有料道路はいずれは無料になるはずなのに、新道路を作る名目で、無料化が遠のいている。無料開放の時期をきちんと示せ。
道路公団側にもいい分があるだろう。
いわく「そもそも道路整備特別措置法には公聴会のような規定がない。」
いわく「高速道路は鉄道とは違う。道路という施設の使用料をいただく立場で、払い戻しはできない。」
いわく「道路の新規工事では土地買収費のよそくが立ちにくい。したがっていつ無料にできるかの計算はしていない。」
新しい高速道路を造る、だからカネがかかる、だから料金を上げるという方針を、公団は金科王条にすべきかどうか。
高速をふやすよりも、既成の高速道路の「速く安く」を実現させるためにもっと力をつくせ、と考える利用者の数が案外多いかもしれない。
公団は利用者の声にもっと耳を傾けてもらいたい。
『朝日新聞』 1988年4月22日