第2回 やってみると見えてくる・・

500円通行の再現

2月12日午 後5時37分、6レーン6ブースあるボックスの左側から2番目に入った。用意した録音カセットのスイッチを咄嗟にオンにする。これから始まるであろう料金 徴収員(公団の正式名称である。公団職員は1人も配置されていない。ほとんどが公団から徴収業務を委託された”ハイウェイサービス”等の会社に高齢者雇用 就業促進対策の一環として雇われた人々)とのトラブル会話を正確に記録しておきたかった。緊張のあまり、どんなやりとりになるか予想できず、また記憶する のが不可能と思ったからである。
以下、録音されたものを圧縮、再現する。

「500円で通過したいんです。そういう体験をしたいものですから」 「えっ?」「何ですって?」「500円じゃ通れないですよ。ここは600円」

4回にわたり、同じ言葉が繰り返された。徴収のおじいさんは、始めのうち事態を把握できず大声で「600円」を強調した。

「いや、そういう体験ができると聞いたので通らせてもらいます」 「えっ? だれが? そんなことないですよ」

これだけのやりとりで、もう後続車の列ができた。「何をモタついているか」と抗議のクラクションを鳴らし始めた。料金所入口ではトラブル御無用と実感する。わずか1分間でさえもたつきが許されないのだ。やむをえず、用意した名刺を渡しながら最後通告をした。

「とにかく、一応、体験してみますから」

不運な回り合わせのおじいさんは、驚いたことに名刺を受けとろうとせず、身を引きかげんにしてつぶやきを繰り返した。

「いやいや、私が困るから。困るから……」

呆気に取られる思いで、さらに、念を押した。 「いいですか。いいですね」

徴収員は「ええ」と、はっきり言った。私に差し出した500円玉と名刺のうち、500円玉だけをサッと受け取って、早く通り抜けてくれといわんばかりに半身に逃げる姿勢を取った。当然のことながら領収券は切ってくれない。
「料金不足通過の体験をすべく、あえて500円で通る者です。逃げ隠れはしません。首都高速道路公団様」と出がけに添え書きをしハンコまで押した名刺をポケットにおさめながら、私はアクセルを強く踏んで急発進、急加速させた。
「これで、逃げ隠れしていることになるのかな。それにしても難無く通れるものだ。たしなめたり阻止しようとする態度がかけらもなかったのは何故だろう」思いつくままの初体験の感想を録音機に吹き込み始めた。

情けないほど緊張しただけに物足りない感じがする。やりたくなかったけど、やってよかった。これまでわからなかったことがわかってきた。いろんなことが見えてきたと嬉しく思うのだった。発見の喜びである。

4つの発見

発見の第1

出口にチェックのない首都高入口突破のし易さである。入口を通過さえすれば、もうこちらのもの。逆に公団には成す術がない。出口で料金を払う日本道路公団方式や、入口・出口の双方で目を光らす鉄道駅改札口と違ってもろいものだ。首都高の意外なウィークポイントである。

発見の第2

このもろさで、これまでトラブルなしでいられたのは何故か。料金を払う側、徴収する側の双方に暗黙の了解要項があったせいである。高速道路利用者と料金徴 収所の間に信頼関係あり、との大前提があった。規定料金を払わなければ、高速道は使えないとの思い込みが利用者側にあり、道路管理側にもお客が料金を忘れ ず払って通るとの安心感があった。

仮にの話、料金徴収が不安定であれば、道路管理者側は利用者が料金の支払いを済ませないと車が通 れないように、金属棒でゲートを閉ざす以外に料金不足通過を防ぎようがない。しかし1台通過ごとにゲートを開閉したりすれば、すさまじい大渋滞を招く。利 用者、管理者ともにお手上げとなる。結局は強行突破で自由の現行オープン方式でやらざるを得ない。守りの立場の公団としては、道路建設のハードと道路管 理・運営のソフトの両面で多いに努力・サービスし、利用者との信頼関係強化を図るしかない。和合突破行動は盲点を衝き、さまざまな問題点を明るみに出し た。それだけでも、大いなる意味があった。

発見の第3

ところで、私の払った500円はどう処理される だろう。ブース内には不運なおじいさんが1人だけ。私との料金支払いトラブルに気づいた人は他に誰もいないはず。領収券も切らなかった。500円をポケッ トにしまいこんでもお咎めを受けない。まさか隠しカメラで監視されることもなかろう。

だとすれば、これはトラブルに非ずして、ウェ ルカムの事態ではないか。私は100円を儲けたし(?)、徴収員も500円の臨時収入にニヤリとしているかもしれない。なまじ名刺を受け取って慣れぬ顛末 書提出に苦労するよりも、トラブルそのものを個人的に消去する、なかったことにすればオール・ハッピーではないか。公団だってトラブル続出より”世はこと もなし”を本心では願っているはずだ。

発見の第4

公団による料金所のチェックを利用者が逆チェックす る、滅多にないチャンスを期せずして手中にした。多いに利用してやろう。3日前の首都高取材では社会ルールの厳守を説教され、料金不足を徹底捕捉すること をすると脅された。本当に捕捉できるか、今度はこっちが攻める番だぞ。私の500円通過を公団幹部がどこまで正確につかむか、それが問題だ。楽しみが1つ ふえたな。


この文書は昭和63年に内藤国夫氏により執筆されたものである。

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