第5回 500円通行は阻止されたか?

おいこら!

約束の時間に現れた和合氏は、ユーモア大好きの面白人間であった。
「ご自分をユニークと思われますか」と問いかけたら「とんでもない。私は物事を単純に考える。シンプル・イズ・ベストの信奉者」と応ずる。

首都公団が「1週間後に出す」と強調した請求書にしても、和合氏には何の効き目もない。「配達証明の速達で送ってくるけど、こっちは開封しないので内容を知らないのですよ」と平然としたものだ。
参考にしようと2月5日発送の催促状を1通拝借した。封を切ったところ、昨年の9月11日から12月21日までの間に500円通行を45回重ねたとして「不法に免れた料金額 4500円」「割増金 9000円」「手数料 40円」の納入が催促されてあった。

「グ リーンカードとか大型消費税。多くの人が反対し、常識に反するものは結局つぶされた。首都高の通行料金値上げも常識に反する。円高で物価安定のこの時期、 2年とちょっとの間に2回、400円だったのが5割アップの600円。そんな無茶をする首都公団は許せない。裁判で争っても私が絶対に勝ちます」

断言する和合氏には、勝つ自信とそれなりのうらづけがあった。400円から500円に値上げされた前回も、今回と同じく旧料金通行に挑戦した。首都公団 は支払催促の電話を数回かけてきただけ。和合氏は40回ほど旧料金通行を重ねた。「3ヶ月ほどやったが、何か疲れたし、面倒くさくなって、やめちゃった」 せいもあるのだろう。そのままウヤムヤにさせられた。不払い貫徹の実績があるわけだ。

この時はマスコミが1行も報道しなかった。ひとりぼっちの黙々とした抗議行動だった。今回はマスコミが応援報道してくれるし、わずかながら仲間もふえた。  マスコミ報道で首都公団の対応がどう変ったか、生々しい体験を和合氏が語った。

「昨 年の9月10日に料金が値上げされた。利用者に何の説明もせず料金改訂の看板を出しただけ。腹が立って翌日から旧料金通行を始めた。始めの2〜3ヵ月間 は、料金所のおじさんが”困ります”というだけ。何のトラブルもなった。顔見知りになったおじさんが”やあ、和合さん、ご苦労さん”と声をかけるほど、ナ アナアの仲になった」

料金不足通過の事実上の黙認期間があったことを首都公団側も認める。「しょっちゅうご利用いただくお客さんですからね。トラブルは起こしたくなかった。和合の挑発に乗せられる是非を内部で検討したり、説得期間を置こうという考えもあったのです」というわけだ。

挑発したのは、もっぱら和合氏の側であった。”おいこら騒動”があったのは、このナアナア期間である。料金徴収員の発言が「困ります」から「あと100円 払って下さい」さらに「ストップ」とトーンをあげるにつれ、ある日通り過ぎる和合氏に「オイ、コラ」の声が浴びせられた。
和合氏は車をわきに寄せて止め、車から降りて料金所に怒鳴り込んだ。「ふざけた言葉を使うんじゃないよ」と徴収官のおじさん8人ほどに説教したのであ る。その場で”話し合い”がまとまった。「100円の支払いを。ストップ」までの声は、かけていいが、「オイ、コラ」は言っちゃあいけねえぞ、わかりまし た、申し訳ありませんでしたと、その後の通過方法について”合意”が成立したというのである。

「明日は午後6時ごろ通過するからな」  和合氏は何回か電話で予告さえもした。実際には通ったり通らなかったり。公団側を挑発する”ゲリラ戦法”であった。
“フリーパス”時代が続く折、『週間ポスト』や『毎日新聞』の記者が同乗取材した。「ヘエーッ、こんなにラクラク通れるのですか」と呆れられたり、感心 されたり。どこの料金所でも同じ状況で通過できることを立証するために、和合氏は、わざわざ首都高を降りたり乗ったりを3回も繰り返した。そのために要し た料金が1500円。正規料金の600円より、結局、余計に支払ったことになる。

黙認期間の終わり

びっくりした『毎日』の浦和支局長が、昨年12月半ば頃、首都公団への取材を始めた事で、黙認期間が終わりに近づいた。首都公団が「和合不法通過の実力阻 止」の検討にとりかかったからである。若者向けの週刊誌1誌だけに書かれる間は内部での検討にとどまり、結果として放置したけれど、一般記者が取材に動い たことで「これは社会的事件になるかも」と公団が判断したのである。
公団は料金所に職員を派遣し、実力阻止の機会を狙った。社会的事件としていずれ報道される。表面化が避けられない。「蟻の穴から堤も崩れる」というではないか。

その後、今日に至るまで和合陣営と首都公団との間で交わされる攻防戦は、すさまじいの一語に尽きる。
埼玉県戸田市内に住む和合氏は首都高 池袋線の高島平インターで乗って、志村料金所を通過する場合が多い。1ヵ月に10回ほど埼玉と東京の間を往来する。時間は午後から深夜までとマチマチである。
いつ現れるか、いや現れないかもわからない和合氏を、臨時に料金所に派遣された数人から10数人の公団職員が待ち受ける。深夜に及ぶあてのない待ち作業。1ヵ月余の間に支払われた職員の超過勤務手当だけで100万円を超したと首都公団が認める。

“100円の戦い”が首都公団にとっては、数百万年、数千万円の予期せぬ出費につながった。今後の値上げ実施時期に影響したり、あるいは旧料金通行が利用者の間に広がれば、数百億円の打撃になりかねない。
首都高の料金所は全部で120ヵ所。料金徴収業務はすべて委託され、公団が直接タッチはしない。和合対策で志村料金所1ヵ所へなら、公団職員の臨時派遣 も可能である。120ヵ所のすべてに旧料金運動が広がったら、どうなるか。首都公団としては考えてもみたくない悪夢である。火が燃え広がってからでは消し ようがない。”和合ボヤ”の間に、なんとしても消し止めたかった。

4回の阻止行動??

首都公団にとって幸いなこと は、志村料金所が7レーンと都内でも最大規模の1つであり、”和合不払車”を一般利用者から隔離しやすいことだった。退却させるのに入口をバックさせると 危険が伴う。志村には管理用通路が特設されており、危険を配せず一般道に降ろせる。おまけに和合氏はいつも決まって1番左側のブースを使用し、阻止できる ものなら阻止してみろとの態度をとっていた。
公団は和合車の前進を阻み、後続車を絶ってトラブル防止と説得をしやすくするため、バリケードに使うアングル、セーフティコーンズなどの7つ道具を準備 した。警察(警視庁高速道路交通警察隊)にも「不法侵入者実力阻止」の決意を伝えた。緊急事態の説明、報告であって、パトカーの出動要請ではない。それで も警察は独自の判断で料金所周辺のパト巡回を強化した。

準備万端ととのって「実力阻止」が実施された。首都公団は「これまでに4回阻止した」と成果を誇示し、一方の和合氏は「そんなにあるものか。実質的な阻止は1回もないよ」と笑いながら反論する。いかに食い違う主張を併記しよう。

第1回 12月23日

公団。「午後5時半頃、待ち受けた東京第1管理部長ら公団職員が和合車を他から隔離し、通行の妨げにならないようにしたうえで説得した、あの人が興奮していたし、初めての接触なので、後日、不足金を請求することで決着は通過を認めました」

対する和合氏。「冗談じゃないよ。バリケードまで張っておきながらオレ一人をどうにもできないんだ。ぎゃくにオレが1時間ほど説教したのさ。そして堂々と 通った。”おまえら20人も動員して阻止できなかった。明日も通るゾ。今度は30人用意しておけ”と宣言してやった。オレも馬鹿だよな。暮で忙しいのに、 翌日もわざわざ出かけていった」

第2回 12月24日
公団。「通過を完全に阻止した。管理用通路から一般道へと退却させた。」

和合氏。「人と会う約束があり、話し合いなんかやっている時間がなかった。それで降りたけど、次の板橋本町料金所で500円を支払ってポーンと入っちまっている。それを知っている公団が阻止したというの、おかしいよな」

第3回 1月12日公団。「テレビ局の取材を受けながら通過しようとしたので、阻止し一般道に退却させた」

和合氏。「アハハハ。やらせだよ。追い出されるシーンを撮影したいと、テレビ局が頼むので注文通り、わざと阻止されたんだ。アハハハ」

第4回 2月10日公団。「錦糸町料金所で10数人の職員と黄色いパトカーで張り込み警戒中に和合車が不法通行を試みた。パトカーで前進を阻止し説得に努めた。和合は通行をあきらめた」

和合氏。「これも違うな。韓国旅行で成田空港から帰宅途中だった。ヤツらはそこまで調べオレを張っていたのよ。腹が立ったのでクルマに鍵をかけてそこに放 置し通りかかったタクシーで帰宅した。通行料金はすでにタクシー運転手が払っており、まあ引き分けだな。タクシー運転手には頑張れと励まされたよ」

マスコミ報道でタクシー運転手は和合氏の運動を知っており、公団実力阻止の結果を見届けたくて現場に停車し見守った。そのため高速道上で客を乗せるという珍しい初体験を味わったのだった。


この文書は昭和63年に内藤国夫氏により執筆されたものである。

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