第6回 明るみに出される矛盾と膿

警視庁の公式見解は・・

4回の実力阻止行動中の全てで、高速道警察隊のパトカーが、遠くから事態の成り行きを見守った。なぜか近づこうとしなかった。
首都公団側は和合氏の行動を「不当かつ不法」と指弾する。道路整備特別措置違反は明らかであるし、道路交通法や刑法(威力業務妨害罪)に触れるとも主張する。
「警察が独自判断で乗り出すと期待しています。脱税者と同じ扱いで、いきなりは逮捕しないだけ。警察に当公団が告発することも検討中」と最後は公権力発動をほのめかす

対するに和合氏。「法律は常識だ」との信念から「不法でなんかあるもんか。警察は絶対に介入しない」と言いきる。警察不介入の安心感をフリーウェイクラブ の仲間にも訴え、「首都公団の体質を是正するという目的と問題意識、誇りと自信を持とう。立派で正々堂々とした態度での行動を」と呼びかける。

不法か否か。警視庁の見解を質した。

「正 規料金の1部不払い行動があり、道路管理者と利用者の間でもめている。当事者で解決すべき事案であると考えます。民法上の不法行為かどうかはともかく、刑 法上の不法行為にはならない。威力業務妨害罪の不法行為に発展するのを未然防止するため、パトカーを出動させているが、あまり近づいて介入と見られないよ うに注意しています」

高速警察隊副隊長が語った警視庁の公式見解である。首都公団幹部に伝えたら「そうですか」とがっかりした様子だった。「道路整備特別措置法には罰則規定がない。それで警視庁は慎重なのかな。でも公法上の不法行為であることは明白です」と未練ありげである。

公団と経営論争

首都公団と和合氏は料金所周辺でいがみあっているだけではない。より高級な経営論争も展開中である。

「公 団の部長や課長の高給取までが”100円払え”としかオレに言わない。それで怒ったんだ。徴収員の何倍もの月給をもらいながら、徴収員と同じ事しか言えな いのかよ、と・・。値上げをしないで済ませる方法があるはず。それを話し合おうじゃないかと俺が言い出して大喧嘩になったんだ」

経営論争は5回に及ぶ。公団が2回、和合氏の会社を催促に訪れ、和合氏が同じく2回、公団本社を不意打ちし、あと1回はテレビの生中継でわたりあった。
和合氏は23歳で自ら金属加工会社を起こし、23年後の今は年商5億円、従業員18人の零細企業経営者ながら、将来は上場企業入りを目指す。関連特許や実用新案などのパテントを160件保持する、ダイカスト業界では知られた存在である。

「た だ、商売関連で言うと、今回のオレの行動、マイナスばかりで、1つのプラスもない。売り上げが落ちるとは思わんけど、また仮に落ちたら、それは公団の圧力 せいではなく仕事に対するオレの実力がそれしかなかったことになる。協力工場の連中はいろいろ心配してくれるけど、それとこれとは別だ」

「それとこれ」の両方に自信を示す和合氏が「こんな馬鹿な話があるか」と机を叩いて怒るのは、首都公団の借金過剰依存体質と、超低金利時代の常識はずれ高金利支払いだ。

「民 間の零細企業のウチ当たりでも、今は年利5.75%で金を借りれる。首都公団がいくらの金利を払っているか知っているかい。6.5%だよ。6.5%。国が 保証人という強い立場の公団がこんなベラ棒な金利を払うのはおかしい。借金の金利を3%下げれば、480億円の金が浮く。100円値上げで目論む300億 円増収分が簡単に取れるじゃないの。
借金丸がかえの甘えた体質も驚いたよなあ。年商(料金収入)の10倍くらいの借金があるそうだ。民間だと借金が年商分になったら、それだけでもう倒産だね」

公団との喧嘩を重ねるに従って公団経理の細かい数字に詳しくなった和合氏は、経営者の常識に反する行為の数々に驚いたとコブシを振りあげかねない勢いだった。
訴えられる当方は、もう驚かなかった。首都公団を取材してた際に驚きを体験済みで、”親方日の丸”気質にどっぷりつかった首都公団幹部の痾について、和合氏よりわずかとはいえやや詳しく知っており、逆にその依ってきたる理由を解説したぐらいである。

驚き呆れるマネー感覚

「ハードとソフト」取材のついでに「マネー」感覚についても浅井理事長ら居並ぶ公団幹部に矢継ぎ早の質問をした。結果は驚き呆れることが多かった。どう驚いたか。以下簡単に解説申し上げる。

驚きの1 自主判断の欠如というよりも、放棄に近い無責任体質

料金の夜間割引サービスで昼間の利用客を夜間にシフトし、渋滞を減らすよう提案したのに対し、「研究してみる」との返事のほかには「料金変更は運輸省、建 設省の許可が必要。相談してみないことには」と自主判断を放棄して恥じない。自らこうしたいとの意欲がほとんど感じられなかった。命じるままに動く”執行 代理人”が、公団幹部の役割なのだろうか。

驚きの2 コスト意識不足が原因の数字把握のあいまいさ

質問した半分ほどに、その場で浅井、野村両トップの回答が得られなかった。「正確に答えたいので、のちほど」と留保される。
こちらは「官報に書くわけでない。アバウト(大まか)で結構。全体像をつかみたい」と譲歩しつつ即答を迫った。のちほど寄せられた正確なはずの数字まで が、訂正、変更続出の始末である。必要経費として何にどれだけの金がかかり、それをどう調達するか。たとえばダイエーの中内会長であれば、たちどころに数 字を並べ立てるはず。根幹的な枠組みについて手帳にメモもされないか。
高給取であること自体を非難はしない。政府準拠で他公団並みに統一されることでもあるし。ただ高給取にふさわしい指導性発揮を、コスト低減努力をと、生意気にもご忠告申し上げた。

驚きの3 金利の高低感覚マヒ

以上3つの理由から、超低金利時代を迎えても、過去の高金利借金を現在の低金利融資に借り替えて、コストを下げようとの意識がない。今度は大蔵省への責任 転換である。首都公団の資金調達は財政投融資(政府引受債と政府保証債)及び民間資金(縁故債と民間借入金)の2ルートに依存する。

62年度末の借金残高総額は1兆6400億円。料金収入は年度途中からの値上げ増収額を含め同年度末で1770億円(推定実績)。「年商の10倍の借金」が誇張ではないのだ。
これだけ膨大な借金を抱えるため、金利が1%違えば、即、160億円の支出増減につながり、公団経営の根幹に大きく影響する。長期短期さまざまで利率も 8.8%と目をむく高さから、最近は5.1%の低いものまで各種各様。加重平均にすると、6.7%になると、のちほど回答された。

しかし同時に「金利は他公団と統一して大蔵省が決定する。当公団が独自に借換をするのは不可能。もし勝手にやるといたずらに国内金融を混乱させる。自由に借換できる個人や民間企業とわけ(立場)が違う」と御大層な解説がつけられた。

公団官僚としては、年利で0.25%利率の高い民間借入金を少しでも減らし、より低利の政府引受け債を増やすべく大蔵省とわたりあい、増やした実績もある と反論したいところだろう。低金利シフトの試みがゼロとまできめつけようとは思わない。ただソフト思考の不足と合わせ、シフト意識の不足を痛感するのみ。 いずれにしても、金利動向無視の暴走運転が、親方日の丸公団には許されるらしい。

驚きの4 庶民感情軽視による値上げタイミングのまずさ

首都高の料金が値上げされたのは、昨秋で八回目。開業時の供用道路4.5キロで通行料50円。高速道としての一応の体裁を整えた羽田−都心部開通時(昭和 39年秋の東京オリンピック開催に合わせて)8月2日に2回目の値上げ実施で18.3キロの供用に対し通行料150円。当時、道路建設関係者の合言葉は、 「1キロ10円で走れる高速道路を作ろう」であった。その目標どおり、1キロ10円以内に抑えられたわけである。

そのデンでいけ ば、首都高の供用道路は200キロを超えたのだから、掛ける10円とすれば通行料が2千円になってもおかしくないとの理屈が、一応は成り立つ。しかし羽田 -都心部間時代は利用者のほとんどが起終点を全利用した。網の目ルートが広がるにつれ、全利用はあり得なくなった。マニアがいて網の目を工夫して選択、グ ルグル回っていれば、永久にでも走っていられる。

しかし、端から端まで最長距離コースを走るとすれば、東名道の東京出口、首都高の 用賀料金所から3号、都心環状、6号、中央環状、川口の各線を通り東北道に入るまでの46.6キロ(料金所間距離。管理道路の境目では、47.12キロ) が一番長いルート。とすれば、掛ける10円で、いみじくも旧料金の500円が正しい。目標内の通行料金となる。貨幣価値の低下、低落はこの際考えない。値 上げ後の600円は先輩たちの合言葉に反する料金だと首都公団首脳はお気づきだろうか。

通行料金の値上げは、新規路線開通、供用距 離延長の時期に合わせ、新設ルート建設にかかった費用を上積みする口実(30年で償還し、その後は無料開放のタテマエで計算する。実際にはプール計算のた め、新道路累加の都度、無料開放の”30年後”が半永久的に先送りされる仕組みである)のもとにこれまで実施されてきた。

例外もあ る。49年8月1日、4回目の値上げ(200円から250円に)は、4号線の新宿(初台)から高井戸間6.5キロが延長したにもかかわらず10ヶ月間実施 時期を遅らせた。第一次石油危機での物価狂乱の経済状況が配慮されたためである。狂乱物価で値上げ時期を遅らせた例外がある以上、今回もまた、本当は逆配 慮をするべきだった。つまり、ここ一両年は物価沈静が著しい。その中で首都高の通行料値上げだけが3年足らずの間に50%アップと、それこそ和合氏よりも 先に首都公団自身が”突出”しているのだ。
公団首脳に、もし物価安定に安堵する庶民感覚を大切にし、値上げにはタイミングも必要と立ちどまって考えるだけの賢明さがあれば、公団だけの突出に待ったがかけられたはずである。

過去の建設費総額を30年償還で料金を自動的に決めて通用するのであれば、高給取りの役員は不要である。コンピュータが1台あれば、料金値上げの時期と上 げ幅を教えてくれるだろう。コンピュータでは、はじき出せないことがいくつもあるので、公団首脳の存在価値も生ずるのではなかろうか。

コンピュータのはじき出せない面白計算を一つだけ提示する。最長コースの46.7キロを走っても、600円の料金であるけれど、同時に京橋−新富町間を高 速利用すると仮定(現実にはいないだろうが)すれば、わずか80メートルを走っただけでも、同じく600円の通行料を払わなければならない。八重洲−丸の 内料金所間が160メートル、京橋−銀座間が390メートルで同様に600円を徴収される。

首都高東京線を均一料金にした現行制度 (神奈川線は別料金)が、ルート拡大につれて、次第に矛盾を抱え込むようになった。1キロあたり通行料が、ルート、通行区間選択によって500倍も違う。 均一料金導入時には考えられなかった制度矛盾である。さすがに公団内部で「おかしい」と問題にされつつある。コンピュータ任せにしてはならないわけだ。

そういう数多くの矛盾、4半世紀にたまった膿が、和合突出行動で、今、明るみに出されつつある。


この文書は昭和63年に内藤国夫氏により執筆されたものである。

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