第7回(最終回) 和合流のやりかた

500円通行の輪は広がっているのか

取材するべき人間が、調子に乗って、つい”演説”になった。だが、和合氏は熱心に耳を傾け、やがて表情に穏やかさが増したように感じられた。そして「ウーン」とうなりながら、こう感想を漏らした。

「正直言うと、俺、寝耳に水の値上げ、じゃなくて改定と書かれた600円新料金にの文字を見て、ただもう頭に来ただけ。とっさに 名刺を渡し、500円で通るぞといって通った。計算は何もしなかった。動物的感でこれはおかしい、許せんと思ってやっちまったんだよ。演説を聞いて、オレ がやっていることの正しさが裏付けられた思いがするなあ」

取材者であることを思い出して、演説をやめ質問に戻った。

「和合さん、最後に伺います。旧料金通行の運動の輪の広がり方についてです。首都公団は”和合一人だけ”をしきりに強調する。一 回やった人入るけど2回、3回と続けてやった信念居士、公団表現を借りると不法行為累犯者は、ほかにいないと言い張るのです。輪が広がっているか、しぼみ つつあるか、どっちでしょう?」


それまでは明快に応答していた和合氏が、この時だけあいまいな態度をとった。勇気づける思いもあって、私はまたまた演説者、もしくはアジテーターに変身した。

「じゃ、その答えは、私自身が出してみよう。今日の私の500円通行を首都公団が正確にキャッチするのであれば、公団の主張す る”和合一人だけ”の信憑性が高まる。料金所からの報告が届かず、不法通行者一人にカウントできないのであれば、”一人だけ”が現実無視の強がりと判明す る。結果をお楽しみに。」

「どうにも救いがたいと思われます」

2月15日日曜日の朝、首都公団総務部長の出勤を待ちかねるようにして、乱用厳禁の”仕掛け”質問を電話で通告した。以下は、そのやりとり。

「こういう折だけに、不法通行の有無について毎日、料金所から報告させ、チェックしていますか?」
「もちろんチェックさせています。」
「じゃ、過去一週間にどういう不法通行があったかの集計データを私にください。」
「分かりました。すぐに届けましょう。」

届けられた公団作成の「不法通行状況」一覧表には、和合秀則(46)一人の名前しかなかった。一週間に4回やっている。ほかにはフリーウェイクラブのメンバーを含め、不法通行者は一人もなしと解説された。

仕掛けに引っかかったな、と思いながら、私は追加調査をお願いした。

「実は僕も不法通行をしているんです。いつ、どこの料金所で、どういう形式の不法通行があったか、もう一度全調査をお願いできませんか。僕の事例がどう処理されたかを知りたいものですから。」
「分かりました。やってみましょう。少し時間がかかるかもしれません。」

激しいやりとりが交わされた途中経過は紙数の都合で省略する。「少し時間がかかる」どころが、結論が出るまでに4日かかった。その間、公団側が不法通行なしを強調しすぎた。当方も少し腹を立て、文藝春秋社と光文社の編集者各一人づつに”協力”を求めた。

二人とも最初は嫌がった。趣旨を説明したら納得して行動に移した。結果は二人とも”簡単”に成功した。対応は料金所ごとに違った。500円を受け取ったり、1円も取らなかったり、まちまちなのだ。
光文社の月間「宝石」編集部・末廣紀夫氏に至っては、拙宅に原稿を受け取りに訪れる際、社旗をひらめかせたハイヤーで500円通行に挑戦した。料金所では車両ナンバー「練馬55 か 6374」をメモするのみ。通行挑戦者が誰であるかの確認もしなかった。払おうとする500円玉さえ受け取らず、取らないのかと念を押したら、いらない、発進してくれと言われた。こういうことさえ、首都公団は未だに掌握できない。
首都公団からどういう指導が料金所になされているか、疑わしい思いである。通行体験、値上げ分の不払いを読者に勧めたくなるのではないか。

首都公団からは2月18日に最終回答が寄せられた。

「いくら調査しても、和合以外の不法通行が発見されません。深くお詫びします。公団のチェック方法に不備があり、領収書を切らない分についてはネコババされる可能性ありと認めざるを得ません。どうチェックするかは、今後の検討課題です。」

首都公団は今回の取材に対し極めて誠実に、しかし判断ミスと訂正続出の協力をしてくれた。感謝する意味を込め、総務部長氏に忠告した。

「公団首脳に下から寄せられる情報が少し偏りすぎているようですね。都合の良い情報ばかり集めていると判断ミスをしませんか?」
「そうは言われても、下から上がってくる情報を、そのまま信じるしかないでしょう。」

より正確な情報が入るよう努力する大切さが最後までわからないようである。

絶望的な思いで、公団の調査結果を和合氏に伝えた。

「どうにも救いがたいと思われます。あなたが有名になったことで、公団関係の内部造反者から幹部のスキャンダル情報が集まり始め たと先日話されましたね。コンクリート塀のように分厚い壁に対し、スキャンダル情報を”爆弾”として投げつける以外に、彼らをわからせる方法がないかもし れないな。」

対する答えがいかにもユニーク(いや、シンプルなのかな?)だった。

「ヤツらのしぶとさ、卑劣さは、運動をやってみるとよくわかる。輪を広がせるまい、2回目をやらせるまいとして、朝の10時から 夜の10時まで公団職員が3人で仲間の会員の自宅前に張り込んだり、100円の不足請求に一日1000円もの電話代や切手代を使って催促攻勢をしかけてく る。凄いもんだ。だけど俺は簡単に爆弾を投げない。ただ、オレ流にしつこく、コンクリート塀に100円玉でカリカリ、カリカリ傷をつけ続けていくよ。その うちどうにかなるさ。オレは人間ってものを信じる。世の中って、そんなに馬鹿ばかりじゃないと思うよ。」

こっちも要求するぞ!

“百円玉カリカリ”戦術の一つとして、最近の和合氏が考え、実行しているものを最後に紹介しよう。”渋滞電話”を公団にかけるのだ。

「もしもし、公団の営業課長さんかい?オレ、和合だ。渋滞にひっかかっちゃって、退屈しているんだ。渋滞地区脱出まで、自動車電話につきあってくれよな。絶対に電話を切っちゃあ、いけないぜ。
自衛隊のヘリコプターの出動を要請してくれよ。吊り上げてもらえないかなあ。それとおまえさんたち、不足料金の3倍を要求しているというじゃない。だったら動けないときの通行料3倍分の払い戻しを、こっちも要求するぞ。えっ?どうなんだ?」


この文書は昭和63年に内藤国夫氏により執筆されたものである。

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