1 – あなたは現状肯定派、それとも否定派

高速通行料は高いか安いか

 日本の現在の有料高速道路制度を論ずる際に大きく分けて現状否定派(以下Aと称する)と現状肯定派(同B)が存在する。
 AとBとでは、ことごとく見方が反する。

 たとえば、その一例。高速道路通行料は高いか、安いか。
 Aは高いと主張する。

「高いなんて生易しいものではない。ユーザーの負担限界を超 えるほどに高すぎる。これ以上の値上げをすれば、国民の不満が爆発する。低料金に抑えるためには現在の有料道路制度を根本から改めるべきだ。将来的には”道路は無料”の原則を目指さなくてはならない」

 Bは安いと言いたいのを抑えて、少なくとも高くはない、そこそこのいい線を行っていると論ずる。

「負担限界を超えるほどに高いことは断じてない。現に有料道路の利用 者、利用回数はともにふえている。国民の多数が現在の有料道路制度を支持している証拠である。
渋滞、道路情報サービスの提供不足等に不満や批判が強いのは確かである。 しかし有料道路制度をなくそうなどというのは、とんでもない暴論である。そういう論者がいて騒ぎ立てる結果、目立ちはするけれど、それはあくまでも少数派。国民の極く一部にすぎない。
“道路は無料”は不特定多数の利用する一般道路に限られたこと。高速道路網の整備は現行方式(借金して道路を建設、完成後の通行料徴収で借金を返済)で進めるしか、とりあえずの方法がない。建設費を捻出するためにも、そこそこの料金値上げが必要となる。利用者は理解し、支持してくれるものと確信する」

 高いか安いかの論点に立てば、私はAに近い。過去はともかく、将来の歯止めなき値上げに強い危機感を持つ。A’の立場とでもしておこうか。Bの言わんとするところを理解しないでもないが、Aの感情を軽視して道路づくりを進めることに警鐘を発したいと思うのである。

 AとBとの論争点は、さらに広がる。
 渋滞は是か非か。現状は、日本全国渋滞だらけである。有料道路、一般道を問わず、大都市、地方都市に関係なしに、常時渋滞地区は年を追ってふえる一方である。簡単なことでは解決策がないとわかっているだけに、国民は苛立つ。時間とエネルギー双方のムダ使いはひどくなるばかり。それこそ、許容範囲を超えつつあり、国民の怒りがいつ爆発してもおかしくないと筆者は憂える。
 そういう状況下にあって、渋滞を「是」とする者は、さすがにいない。渋滞は、やはり断じて「非」であり、国民の誰にとっても「実に困ったこと」なのだ。
 だが、その渋滞をどう考えるか、対応策、解決策を模索する方法論において、AとBとでは意見が大きく異なる。
 どうしたら渋滞を解消できるか

 Aは政府の道路政策無策を衝く。

「税金をもっとドーンと投入すればいいんだ。政府や地方自治体は、自動車の所有者、利用者からガソリン税、自動車重量税そのほかをガッポリ徴収している。有料制度そのものをなくして、自動車関連諸税を全部道路整備に回さないことには、渋滞を解消できるわけがない。
 道路が国道や地方道、各種公団の管理する有料高速道路と複雑に分かれ、渋滞の責任がはっきりしないことにも問題がある。渋滞で受ける迷惑の怒りをどこに持っていけばいいか、国民にはよくわからない。渋滞の責任追及ができず、結果として、渋滞が少しも改善されない。高速道路代金の値上げばかりが国民に押しつけられる。
 道路政策の破綻は今や明らかだ。政府はまず、その破綻を認めて国民に謝罪し、公団制度を廃止してしまえ。原則として政府が責任を持つと明確にしながら、渋滞解消に全力投球するしかないのではないか」

 Bは渋滞解消への積極的努力を進めるためにも、現行の道路づくり制度の有効活用を主張し、Aを暴論ときめつける。

「渋滞の根本原因は、狭い国土に車がふえすぎたことにある。誰の責任でもない。これは自動車先進国に急成長を遂げながら、道路後進国からの脱出が遅れた日本が宿命的に負う苦しみとしか言いようがない。
 それを少しでも解消しようとして、有料道路制度が考案された。税金を投じるだけで、現在の高速道路網整備が進められるはずがなかった。税金で無料の道路づくりは理想論であっても、非現実的すぎる。そんなことをしたら、渋滞を解消できるわけがない。ますますひどくなるばかりだ。受益者負担の原則に立って、利用者から料金を徴収する。料金収入によって道路建設費を返済していく。道路公団方式など、現行の道路行政こそが日本に適合したやりかた。
 これをさらに押し進めて、渋滞解消に地道に取り組むしかない。道路財源の安定化を図るためにも、時に応じての通行料金改定が必要となる。値上げに反対とか公団解散を主張するのは暴論そのもの。渋滞解消の何の役にも立たない」

 あらゆる道路を税金だけで作り、無料解放できれば、それに越したことはない。だが、いまの国家財政の余裕のなさを考えれば、ないものねだりに等しいだろう。だからと言って、高速道路網整備を通行料収入による借金返済だけでまかなおうとするのにも、今やはっきりと限界が生じた。現状のままでは、いずれ行き詰まる。高速道路利用者がふえているとはいえ、それは車と有料道路の双方がふえたためである。有料道路支持派がふえたのではなく、ほかに選択手段がなく、やむをえず有料道路に乗り入れる人がふえたにすぎない。利用者がふえるにつれ、不満派が逆にふえているのだ。
 三十年償還の約束は守られるのか

 なかでも最たる不満は有料道路の無料開放時期をめぐる深刻な意見対立である。

「有料道路はあくまでも臨時の姿。建設・管理費を三十年以内に償還し終わり、その後は無料解放すると法律に定められている。三十年償還の約束を守れ。何かと口実を設けて解放時期を先に延ばすのは、国民を欺く許し難い行為だ。政府が嘘をついていいのか」

 三十年償還後の無料解放の約束が、最近なし崩し的に破られる現状にA派はことのほか苛立ち、不信の念を強める。

 B派はタテマエとホンネの両方を時により場所により使い分ける。

「三十年以内で償還完了は確かに法律の定めである。しかし、その道路の完成の日が起算日となって、以後三十年以内の償還を目指す。実際にははとんどの道路がまだ完成しておらず、いつ完成するかの見通しも立たない。そのうえ路線別の収支計算方式から料金プール計算方式に改められた。その時点で、三十年償還は、事実上、姿を消した。料金を算定する基礎数字として三十年での償還という言葉を使いはするものの、これは三十年後の無料解放を前提としたものではない。道路建設は永遠に続くものとご理解いただきたい」

 三十年後の無料解放の実現は、今や、ユーザー側だけが抱く夢、期待であり、現実には空約束と化しているのだ。「約束を破棄する」と政府が公式に認めないだけ。有料道路は”臨時の姿”ではなく、”特別の姿”として、今後も永遠に続くと断言できる。

 約束破棄の実態を国民が知らされれば、道路への不満が一挙に爆発するだろう。それでなくとも、国民の不満は年を追って高まる。
 不満がなぜ強まるか。高速道路の整備が進み、普及するにつれて、高速道路が特定用途ではなく、生活道路化したことから生まれる問題を指摘したい。稀にしか使わないのであれば、多少高くなろうと、渋滞しようと、我慢ができる。しかし便利になって常用されると同時に、高速道路が日常生活の基礎手段に組み入れられた。
 電気、水道、コメや基礎食品の供給が不足したり、料金値上げが続くと国民の不満が高まる。供給の安定と適正な値段の維持が欠かせない。高速道路もまた、生活手段の仲間入りを果たすことで、同じ状況に置かれる。期待と依存が強まれば、要求を満たされない場合の不満は大きくなる。不満の高まりは、便利さとうらはらの関係にある。

 一方では便利さをさらに高めるため、高速道路網整備を一層推進しなければならない。整備には膨大な建設費を必要とする。だが、他方で料金の安定を求められる。みだりに料金を値上げされると、常用利用者であればあるほど、強い反発を示す。

 Aの声をあげるのは、高速道路の愛用者である。高速道路を使わない人間には、通行料の高さへの違和感もなければ、渋滞への不満もない。Bの意見に近いかもしれない。自分たちの納める税金を、自らに関係のない高速道路づくりにやたらと投じられるのを好まない。Aと逆の不満が高まる。それを心配して高速道路の建設・管理関係者はB意見の代表者となる。
 高速道路をめぐり、本来は密接て親しい関係にあるべき供給者と需要者がB、A双方に分かれて激しく対立する。皮肉な図式が見えてくるわけだ。

 日本国内のドライバーは五千万人にものぼる。高速道路の利用度、依存度、金銭感覚 等により、AとB、さらにその中間に位置する数多くの意見まで、さまざまに分けられ よう。
 Aは「表面的に自分たちが少数者である」と認めつつも、「潜在的な多数者」と自負 する。「今現在は少数派であっても、潜在的諦めグループの感情を代弁し、近い将来、 多数派に転ずる」との自覚があると言い換えてもいい。
 Bは逆にAを少数派と軽視し、あえて無視しようとする。「五千万ドライバーの大多 数が、料金値上げの必要を理解してくれる。渋滞解消を願い、道路整備資金を確保する には、料金値上げもやむを得ないと判断するからだ。目立つとはいえ、少数者にすぎな い値上げ反対派に振り回されるのは愚かなこと」
 そういう見解に立てば、これから私が展開しょうとするのは「愚かなこと」になるの かもしれない。
 しかし、日本の高速道路問題がかかえる多難さ、前途の絶望的行き詰まりを思えば、 私自身はあえて「愚かさ」を自覚しつつも、少数意見の立場に身を置く。問題提起の難 しさに戸惑いながら、”毒にも薬にもならぬ”よりは”毒を以て毒を制す”効果を期待した いからである。歴史を大きく動かす転機となるのは、少数者の突出行動がきっかけにな る場合が少なくない。少数者の代弁者たらんとするためには、あえて中立的バランス感 覚を捨て去ることも、時に必要と考える。前おきはこの程度にとどめ、早速、本論に入ろう。

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