1 – 料金抵抗

料金抵抗
 「料金抵抗の少なさ」が崩壊

 「料金抵抗が少ない」という言葉がある。
 建設省を初めとして日本道路公団や首都高速道路公団等、有料高速道路を建設・管理 する人々の間で使われる。
 名神高速道路の尼崎−栗東間七十一kmが昭和三十八年に開通して、本格的な有料高速 道路時代を迎えた日本。以来今日まで二十五年の問、道路網を急ピッチで整備するとと もに、道路建設費を捻出するため、高速道路利用者から通行料金を徴収し、数年置きに 料金値上げを繰り返してきた。
 公団関係者は「料金の改定」「新料金の設定」と表現し、「料金の値上げ」とは決し て言わない。だが、ともかくも四半世紀の間に、日本道路公団は車種区分変更を含めて 合計五回、首都高速道路公団は同じく八回の料金改定を重ねた。

 値上げ体験を通じて達した結論が、「料金抵抗の少なさ」である。
 料金を値上げしても、ユーザーの対応に変化が見られない。値上げ直後の数日間だけ は利用者がやや減るものの、すぐ以前の状況に戻る。以後は従来どおりの漸増カーブを 描く。
 料金を値上げしたからといって、ドライバーが有料道路離れをするわけではない。モ ータリゼーション社会にあって、高速自動車専用道は必要不可欠なもの。メリットの大 きさを知るドライバー諸氏は、料金値上げに抵抗を示さず、いくらでも利用してくれる 。いや、利用せざるを得ない。それほどに便利で重宝がられるのが、有料高速道路であ る。

 過去の実績に支えられた、これが道路関係者の自信であった。

「利用者はガタガタ文句を言わずに、新料金を受け入れる。高いと不満な人は、有料道 路に乗り入れず、無料の一般道路を走ればいい。使ってくれるよう、我々が無理にお願 いしているわけではない。」

 競合する道路が、一般道路しかなく、その一般道路は整備が遅れて、高速道路の競争 相手になり得ない。従ってライバル不在、独占企業的強者の立場から、公団首脳のなか には、こう公言してはばからない者もいる。

 「料金抵抗の少なさ」は、しかし、今ようやく崩れかかりつつある。
 首都高速道路公団(以下、首都公団と略す)が、六十二年九月十日、通行料を五百円 から六百円に値上げしたのに対し、予期せぬ”料金抵抗”がユーザーの間から自然発生 的に生じたのがきっかけだった。料金抵抗は今なお続き、首都公団はトラブルを解決す るのに頭を悩ませる。六回目の料金改定を六十三年度中に実施しようと準備中の日本道 路公団(同、道路公団と略す)にとっても、首都高トラブルを他人事視できない。料金 抵抗を生じさせず、値上げをスムーズに実施するには、どうすればいいか。監督官庁の 建設、運輸、大蔵三省のほか道路関係者の全てが、初めて真剣に料金体系の根本的見直 しを迫られる。安易な値上げを繰り返すことが難しくなったとの、当然すぎる認識に、 遅まきながらたどりついたのだ。

「時代の流れが変わった。料金抵抗の少なさに安心していられなくなった。うかつに値 上げすると、利用者から反発されるかもしれない」

 状況変化をまず敏感に読み取ったのは、有料道路の料金許認可権限を有する建設、運 輸両省の役人だった。
 首都公団の「六百円料金」を認可する際に、建設省は道路局長、運輸省は運輸政策局 長の両者連名で公団に対し、異例の「文書指示」を出した。従来は「口頭指示」で済ま せたのに、今回初めて「文書指示」に格上げしたのは、役人の本能的な自衛策であった 。正式な認可をする以前、料金値上げ予告が何度かマスコミに報道された。その報道の されようが従来と微妙に異なり、値上げへの反発が強いと察知した。すかさず世論対策 上の判断を働かせ「文書指示」の形式を整えたのである。

 建設、運輸両省の指示内容は五つあった。

1. 事業の効率化努力。
2. 連絡道路網の早期整備による都心環状線の混雑緩和。
3. 混雑区間の拡幅やランプの増設。
4. 迅速かつ的確な交通情報の提供。
5. 電話や公衆便所等を充実してのサービス改善。

 役人用語が駆使されるけれども、要するに渋滞を早急に解消し、利用者サービスに努 めなければ、料金値上げを簡単には認可できないと警告を発したのである。値上げ後に トラブルが生じた場合、「それみろ。我々が心配し、警告したとおりになったじゃない か」と弁解するのに役立つ。そのために、口答ではなく、文書として記録に残した。役 人らしい自己防衛と責任逃れであった。 首都高値上げで公団の電話が「パンク」

 九月十日の値上げ直後に始まった利用者の料金抵抗は、建設、運輸両省の予想をはる かに越えて大きかった。日本の有料高速道路史上でも初めての激しい反対、反発の声が 湧きあがった。首都公団の電話は、ユーザーからの抗議でほとんど鳴りっぱなしだった という。

「値上げが発表されるや否や、ユーザー並びにそれを代表する言論機関から、公団に対 し猛烈な批判・非難があびせられた。これは日頃首都高速道路の渋滞に対し、ユーザー たちの、持って行きどころのない鬱憤が一斉に噴出したものと理解される」

 首都公団の計画担当理事・並木昭夫氏(建設省都市局審議官OB)が、高速道路調査 会発行の『高速道路と自動車』(一九八八年一月号)でこう告白している。当事者でさ え、はっきりと認めざるを得なかった「批判・非難」が公団に集中したわけだ。

 とはいえ、これらの批判、非難の多くは、一過性のものであった。値上げした直後に は抗議電話が首都公団に殺到しても、半年、一年と鳴り続くわけではない。普通は一週 間、長くて一ヵ月はど持続するだけ。あとは自然消滅する。怒りが少ないからではなく 、利用者大衆の反応とは、そういうもの。ワーッと瞬間的に燃えあがるものの、月日が 経過するにつれ、いつの間にかスーッと消えてなくなる。組織的活動であればともかく 、そう長くは持続し得ないのが、自然発生的抗議行動の特徴である。
 それに料金抵抗が予想外に大きかったと言っても、量的にはタカが知れている。抗議 電話が一日中嶋りっぱなしとしたって、せいぜい二〜三千人の声が寄せられるにすぎな い。一分間に四通の割合いで、十時間電話が鳴り続けるとしよう。これだけでも、応答 するには大変な騒ぎとなるが、さて量的には何人であるか。集計してみれば、4×60×1 0=2400、二千四百人でしかない。

 首都高速道路を利用するのは一日平均、ざっと百万台である。なかで一割のドライバ ーが料金値上げに反対する意思表示なり、抗議行動をすれば、十万人の数の多さになる 。1%でも一万人。率だけを問題にするのであれば、全体の利用数が膨大であるため、ほ んの1%が意思表示をするだけで、とてつもない ”料金抵抗”となって現われる。逆に 言えば、首都公団の電話が終日鳴りっぱなしになった事実をとらえ、大騒ぎするのも可 能であれば、どうせすぐに沈静化すると事態を軽く考えることもできる。
「料金抵抗は相変わらず少ない」と強気の姿勢を崩さない見方があっても、必ずしも不 思議ではないのだ。

 料金抵抗が多いとみるか、少ないとみるかは、客観的なモノサシがあるわけでない。 多分に主観的判断により左右される。
 そして「料金抵抗が少ない」と従来は楽観した公団等の道路関係者が、首都高トラブ ルをさっかけに「料金抵抗を軽視してはならぬ」と慎重論に転じた。これは否定のしよ うがない事実であり、事態の変化である。表面化した料金抵抗が、全体の利用者に比べ ると、量的にも率的にもコンマ以下の小さい数字であるにしても、雰囲気としてそれだ け深刻に受けとめられた。
 首都高に旧料金通行者現わる

 深刻度をさらに強めたのが、一人のユーザーの突出した行動である。突飛で、かつ大 胆、非常識でさえある抗議行動、料金抵抗運動が、相手側の首都公団を立往生させるだ けでなく、日本の道路行政全体を根底から問い直す。行動する本人自身、予想もしなか った地平が今開かれようとする。与える影響の大きさ、問題提起のとてつもない広がり を追及していけば、「革命的な出来事」と表現するのがビッタリと思われる。

 和合秀典氏。埼玉県戸田市で従業員十八人の小さな金属加工業を営む、極く平凡な経 営者である。年齢は四十六歳。若気の至り、血気にはやってとは言いがたい。思慮分別 を十分にわきまえたうえで、なお、首都高通行料金値上げに対し、「怪しからん。絶対 に認めるものか」と値上げ分不払いの抗議行動に立ちあがった。

 首都公団の料金が「普通車六百円、大型車千二百円」に値上げされた翌九月十一日夕 刻、首都高の志村料金所入口での、本能的、咄嗟的な決起であった。
 以来、今日まで一年以上にわたり、和合氏は敢然として”旧料金通行”に挑戦し続け る。首都公団は”料金不足通過”を実力阻止しようと懸命になったが、和合氏に気迫負 けした。ほんの数回だけ、和合車通過にス卜ップをかけたことがあるものの、実質的に はフリーパスに近い状況が今日に至るも続いている。

 まさに「料金抵抗」そのもの。
 料金不足のままの通行がまかりとおる。常識的に考えてあり得ないことが、和合氏の 突出行動によって切り開かれ、実を結ぶかもしれない。
 たかが百円、たった一人の反乱ではあるけれど、破壊力がどれほどにすさまじいか。
 たかが百円、たった一人の反乱であるだけに、その成果は教訓的である。
 一般的には非常識とみられがちな行動である。だが、やっている本人からすると、い かにやりがいのあることか、とりあえず和合体験を読者とともに味わってみよう。

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【口座名義】
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 代表者 和合秀典

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