5 – 対決、首都高vs和合氏

対決、首都高VS和合氏(1)
 公団の説得はただのアリバイ作り

 ”ナアナアの仲”と和合氏が語る平穏な関係は、六十二年九月半ば以降、約三ヵ月に わたって続いた。料金不足通行の事実上の黙認期間である。
 首都公団自身が、当初の黙認を認める。

「しょっちゅうご利用いただくお客さんですからね。公団としてもトラブルを起こした くなかった。こちらがどう対応すべきか検討する時間が必要だったわけです。和合の挑 発にうっかり乗せられて、マイナスになっては困りますからね。それでまあ、暫くの間 、説得期間をおこうという考えがわれわれの側にあった。結果として不法通行をそのま ま見過ごしたと言われてもやむを得ません」

 首都公団内部では、和合氏を戦犯か凶悪犯なみの扱いをする。さんづけで呼んだりは ほとんどしない。憎しみをこめて呼び捨てる。
「和合が」「和合が」と、普段はおとなしい紳士のはずの公団首脳が平気で呼び捨てる のは、異様な感じがするほどである。

 そして公団側は「黙認期間」を「説得期間」と美化するけれども、実際に有効な説得 をした事実はない。説得をしたって、「ハイ、そうですか」と応じる和合氏ではない。 公団幹部のなかに説得を試みる勇気とやる気のある人がいなかった。逆にこの期間、説 教をぶったのは、もっぱら和合氏の側である。”オイコラ騒動”がきっかけだった。
 志村料金所で徴収員たちが「困ります」「あと百円払ってください」とのお願い調か ら、やがて「ストップ」とトーンをあげていった。ある日、いつものようにさっさと通 り過ぎる和合氏に「オイッ、待て、コラッ!」との罵声が浴びせかけられた。
 和合氏には聞き逃がせない言葉である。車をわきに寄せてとめ、降りるやいなや料金 所に怒鳴りこんだ。

「オレもどっちかというと、カッとする性格だからね。”ふざけた言葉を使うんじゃな いよ”って徴収所のおじさんたち八人ほどに説教してやったんだ。”ストップ”とか” あと百円”ぐらいまでの声はかけてもいいが、”オイコラ”を言っちゃあいけないよっ て。おじさんたちもわかってくれたようだ。その場で”済みません。もう言わない”と 約束してくれた」

 首都公団の職員がまだ料金所現場に乗り出さず、委託会社任せにされていた”ナアナ アの仲”時代ならではの話である。百円不足通過があってもトラブルを生じさせないよ うにする、現場段階の合意成立であった。
 説教をするだけでなく、和合氏は挑発もしきりに重ねた。
「明日は午後六時ごろ通過するからな」
 電話で何回も予告したのである。「阻止するつもりなら、阻止してみろ。オレは絶対 に通ってみせるから」との意思表示であった。もっとも、実際には予告どおり通ったり 、通らなかったり。公団側を自在に揺さぶろうとする”ゲリラ戦法”であった。

 この時期、公団側には迷いがあった。黙認を続けるか、実力阻止に踏み切るか。いず れにも一長一短があった。黙認すれば、フリーパスの既成事実が積み重ねられる。”蟻 の穴から堤も崩れる”との言葉どおり、高速道路料金体系の崩壊につながっては大変だ 。といって、実力阻止すれば、マスコミ沙汰になる恐れがある。大騒ぎされることによ り、世間に知られ、百円不足通行が一般ドライバーにまで拡がったら、とんでもないマ イナスに転ずる。そっとしておいたほうが得策かもしれない。

 要は和合氏があきらめてくれればいいのである。首都公団の支部営業課長ら中堅幹部 が、この間に二回、和合氏の会社を訪れて、説得を試みた。「払ってください。お願い しますよ」の一点張りである。ここでも和合氏が逆に説教をぶった。

「料金所のおじさんたちと同じことしか言えないのかい。幹部として高い月給を貰って いるんだろう。少しはマシなことを言ったらどうだ。お願いされたから、じゃ、払いま すとオレが言うとでも思うのかよ。公団の経営がどうなっているか、説明ぐらいしてみ たらどうだ。勝手に、一方的に値上げする利用者無視の経営姿勢がオレには腹が立つん だ」

 首都公団の説得は”やるだけやった”とのアリバイづくりでしかなかった。説得して 不足分を払ってもらえるとは公団自身が思ってもいないのである。 百円取るための経費が百万円

 前にも書いたが、「和合車の通行を実力阻止してあきらめさせるしかない」と首都公 団が決意を固めたのは、毎日新聞浦和支局の記者が取材に動き始めて以降である。公団 はとりあえず志村料金所に二十人から三十人の職員を派遣した。和合氏が埼玉県戸田市 と東京都心部を往復するのは一ヵ月に十回前後、首都高利用の時間は午後から深夜まで と日によってマチマチであると公団調査でわかった。いつ現われるか、いや現われない かもしれない和合氏を待ち受け、料金所通過を実力で阻止しようとの作戦である。

 和合氏の利用する志村料金所は、公団にとって幸いなことに七レーンと広く、都内で も最大規模の施設だった。和合車を一般利用車から隔離して説得し排除する余裕場所が 十分にあった。バックして退去させるには危険が伴うけれど、志村料金所には管理用道 路が特設されており、危険なしに和合車を一般道路に降ろせる。おまけに、和合氏はい つも決まって一番左側のレーンを使用する癖があった。ここを”和合専用レーン”とし 、レッカー車でも使って強引に排除しようと公団は作戦を練った。

 和合車の前進を阻止するために、公団専用の黄色いパトカーを常時待機させる。後続 車を絶って、トラブルを最少限度にとどめようと、バリケードに使うアングルやセーフ ティコーンズなどの七つ道具が準備された。警察(高速道路交通警察隊)にも「不法侵 入車実力阻止」の公団決意が伝えられた。料金不足通行を不当、不法行為と主張する公 団は、警察が取り締まってくれるのではないかと密かに期待した。

 首都公団首脳は、私に説明した。

「道路整備特別措置法に違反するのは明らかです。このほかに道路交通法や刑法(威力 業務妨害罪)にも触れるはず。いずれにしても、警察が不法行為を見逃すわけはない。 独自判断で、いずれ乗り出してくれると私どもは期待しています。いきなり逮捕するこ とまではないでしょうけど、脱税者に対するのと同じ程度の強権が発動されるのではな いですか。必要とあれば、警察に当公団が告発することも検討しております」

 小さいうちに”蟻の穴”をふさいでしまおうとの公団決意には並み並みならぬものが あった。組織をあげて、損得勘定を度外視して、とにかく力づくで和合氏を封じこめよ うというのである。損得勘定度外視といえば、この期間、首都公団が現場派遣職員に支 払った勤務外手当だけで一ヵ月に百万円を越えた。
 百円を取り立てるために、数百万円、数千万円の大金を投じてもかまわぬというのだ った。不払いの火がユーザー一般に燃え拡がってからでは消しようがない。”和合ボヤ ”の間に何としてでも消し止めたかった。


対決、首都高VS和合氏(2)
 ”大本営発表”を平気でする公団

 準備万端を整えたうえでの、第一回実力阻止行動はクリスマスを前にした六十二年十 二月二十三日夕刻に始まった。午後五時半頃、いつものレーンを通ろうとする和合車に 対し、待ち受けた公団の東京第一管理部長ら職員二十人がワッと取り囲んだ。

「”正規料金を払いなさい、払わなければ通さない”と説得しました。しかし、あの人 が興奮してたし、初めての接触なので、ムリはしなかった。”後日、不足分はきちんと 請求しますよ”と通告して、結局は通過を認めました」(首都公団の経過説明)

「冗談じゃないよ。バリケードまで張っておきながら、オレ一人をどうにも説得できな いんだ。逆にオレが一時間ほど奴らを説教してやったのさ。そして堂々と通ったよ。” お前ら、二十人も顔を揃えながら、オレ一人をどうにもできなかった。明日も通るゾ。 今度は三十人用意しておくことだな”と宣言してやった。オレも馬鹿だよな。暮でクソ 忙しいというのに、翌日もわざわざ出かけていったもの」(和合氏の反論)

 そして翌二十四日。

「今度は通過を完全に阻止した。私どもも優しい顔ばかりしていられない。管理用道路 を使って一般道路に退去させました」(公団)

「公団はそんなこと言っているのかい。この日は、人に会う約束があって、ゆっくり話 し合っている時間がなかった。それで面倒くさくなり、一般道に降りはしたさ。だけど 次の板橋本町料金所で五百円を払ってポーンと高速に乗り入れた。公団もそのことは知 っているはずだ。”理事長に渡しとけ”って、通行宣言書を五百円と一緒に渡しておい たもの。阻止したと公団が言い張るの、おかしいよな」(和合氏)

 公平に評して、まあ、引き分けというべきか。
 年内は、これにて休戦。年明けの六十三年一月十二日から決戦が再開された。

「テレビ局の取材を受けながら、和合が通過を図った。前回と同様、我々は断固阻止し 、一般道に退去させました」(公団)

「アハハハ。あれは実は一種の”やらせ”なんだ。追い出されるシーンを撮影したいっ てテレビ局がオレに頼んできた。それで注文どおり、わざと阻止されたんだ。公団は” やらせ”に気がつかなかったのかな。アハハハ」(和合氏)

 四回目は決戦場を志村料金所から錦糸町料金所に移して行なわれた。和合氏が所用で 韓国旅行に出かけた。これを公団がキャッチし、成田空港からの帰路を待ち受け、狙い 撃ちにしたのである。二月十日夕刻のことだった。

「黄色い公団パトカーとともに、公団職員十数人が張り込み警戒中に、和合車が不法通 過を試みた。パトカーで前進を阻止し、説得に努めた。和合は結局、通行をあきらめた 」(公団)

「これも違うな。奴らはオレの韓国旅行まで調べて、錦糸町で張っていたんだ。そこま でしつこくやるのかと、腹が立った。勝手におやりよという気持ちで、車に鍵をかけ、 そのまま放置した。通りかかったタクシーで帰宅したってわけさ。高速料金はすでにタ クシー運転手が支払い済みだった。値上げ分を払わないっていうオレの主張を曲げたの ではない。引き分けだろうね。タクシー運転手には”頑張ってくれ”と励まされたよ」 (和合氏)

 両者が余程派手にやりあったのだろう。現場を通り合わせたタクシー運転手は、喧嘩 の結果を見届けようと、高速道路上に停車し、見守った。そのために、歩行者のいるは ずがない高速道路上で客を乗せるという珍しい初体験を味わった。 手出しをしない交通警察隊

 見守ったのはタクシー運転手だけではない。パトカー乗務の警察官も同じように見守 った。四回の実力阻止行動の全てに対し、警視庁の高速道路交通警察隊は、公団からの 連絡を受け、パトカーを出動させた。近づかず、遠くから事態の成り行きを見守ったの である。
 どうしてパトカーが出動し、かつ近づこうとしなかったか。理由を警視庁に質問した 。

「正規料金の一部不払い行為があり、道路管理者と利用者の間でもめごとがあっても、 当事者間で解決すべき事案であると我々は判断しております。刑法上の不法行為ではな い。警察が直接取り締まることはありません。ただ当事者間で交渉中、威力業務妨害罪 等の不法行為に発展するのを未然防止するため、パトカーを出動させた。民事紛争には 不介入が原則です。あまり近づいて、警察の介入と誤解されないよう、乗務警察官には 注意しておきました」

 高速道路交通警察隊の副隊長が語った警視庁の公式見解である。首都公団の期待に反 し、警視庁はその後も慎重な姿勢を堅持しつづけた。そのうちにパトカーが出動しなく なった。

 二ヵ月ほど後の四月十七日、今度は和合氏が自動車電話で一一○番し、警察官の出動 を求めた。喧嘩の常として、長引けば、両者が感情的にこじれ、争いの手段をエスカレ ートさせる。数にモノ言わせての公団の実力阻止行動に反発した和合氏は、料金所で一 旦停車するのをやめた。停車せず、走ったまま、五百円玉と宣言書を料金所ブースに投 げ入れるのである。停車すると、待機中の職員が車をワッと取り囲む。囲まれるのがわ ずらわしいので、停車をやめようとの戦術エスカレートである。

「時速三、四十kmの猛スピードで料金所を駆け抜けるのですから、危なくてとても手が 出せません。ケガ人が出てもつまらない。無理して阻止するのを見合わせるよう、現場 には注意してあります。こうなるともう、明らかに威力業務妨害罪です。警察にも新事 態を伝えてあります」(公団)

「三、四十kmなんて、とんでもない。一旦停車をやめたのは事実だが、せいぜい五km程 度のゆっくり運転。でなければ、こっちが危なくて料金所ブースに金を投げ入れられな いよ。どうせ最後はオレが通るとわかっているのに、人数をかけ、グラグラと説得をす る。この間なんか、車の前に身を投げ出して、通るなら自分を轢いてからにしろとヒス テリックに叫ぶ職員まで現われた。もう、とてもじゃないが、つきあっていられない」 (和合氏)

 百円玉攻防戦が、いかにすさまじいものか、おわかりいただけよう。和合氏の真似を とてもできないというのは、そこである。一回や二回なら簡単にできるが、何十回、何 百回と重ね、車の前に身を投げ出す職員を相手に、なおねばりぬくには、相当にタフな 神経と、自分がやっているのは正しい、制度改革につながるとの強烈な信念や使命感な しにやれるものではない。 ついに和合氏の車が壊された
和合氏の500円通行を阻止しようとワイパーをもぎ取った公団職員(昭和63年4月17日,志村料金所)

和合氏の首都高速500円通行を阻止するために車を取り囲んだ公団職員(昭和63年4月17日,志村料金所)

 こういう相互エスカレーションの末に、四月十七日の事件が発生した。和合車をいつ ものように取り囲んだ三、四十人の公団職員が、乱暴を始めたのである。窓をガンガン 叩く。ワイパーをひん曲げる。ホイールキャップを外して捨てる。そしてついにタイヤ の空気を抜いて車を物理的に動けなくさせる始末だった。明白な器物損壊罪である。
 和合氏はやむを得ず、車内から一一○番に電話をかけた。ところが、現場にかけつけ た警察官は、公団職員と話をするばかりで、和合氏に近づこうとしない。

「呆れて、オレ、思わず言ってやったよ。”おまわりさん、いったいどうなっているん だ。こっちが被害者なんだからね。こっらの言い分をまず聞いてくれよ”って。そした ら”今、上層部に連絡して和合さんへの対処のしかたを打ち合わせ中です。待ってくだ さい”と、こうだもんな。それからあとも、こっちへは全然寄りつこうとしなかった」

 民事紛争不介入の原則を尊重し、慎重姿勢を維持した警察ではあるけれど、闘士・和 合秀典氏に近づくのは避けたかったらしい。
 結局、この騒ぎは、公団側がJAFの出動を要請し、ワイパーを元どおりに改め、タ イヤの空気を入れ直すなど、折れて出ておさまった。

 公団職員による”集団暴行”の騒ぎは、同乗取材の記者、カメラマンの手で、夕刊紙 にバッチリと紹介された。「テメエ、この野郎」と警棒のようなものを振りかざして和 合氏に詰め寄るヘルメット姿の職員がカメラに収められたのである。(写真)「オイコ ラ」と言わない約束も今は昔。「テメエ、この野郎」の乱暴さに、公団側のあせりが滲 み出る。

 しかし、とことんエスカレートした後は、勇み足をした側が反省してデスカレートす るのも、喧嘩でよくあることである。
 争いの場が法廷に持ちこまれたことを理由に、やがて首都公団は現場での実力阻止方 針を引っこめた。五月連休の前後、志村料金所から公団職員の姿が消えたのである。あ とはまた”ナアナアの仲”の徴収員とのつきあいが復活した。
「やあ、ご苦労さん」とは、さすがにもう言わない。「困ります」「あと百円を」との きまり文句だけ。
 首都公団から定期的に郵送される督促状や警告書も、送られてくる回数がめっさり少 なくなった。
 和合氏にしてみれば、拍子抜けするはどに公団側がパワー・ダウンした。裁判での結 論が出るのを待たずして「これは勝ったも同然」との見方が和合氏の周辺に強まる。

 当の和合氏は、しかし、そういう甘い見方をとらない。

「裁判で勝たなければ、本当に勝ったとは言えない。オレは裁判で勝ってみせるよ。そ れに高速道路有料制度のインチキぶりをもっと徹底的に暴き出さないと、値上げに反対 した意味がない。このままでは、値上げがまた繰り返されるだけだものね。
 公団はオレの行動を不法行為だとインチキ宣伝した。不法ではないと警察が証明して くれたようなものだ。オレは”シンプル イズ ベスト”の信奉者。物事は単純に考え ればいいんだ。
 おかしいものは、おかしい。三十年償還主義とか、料金プール制度とか、公団はいろ いろと理屈をこねるけれど、有料道路制度は完全に破綻した。ネズミ講と同じで、大衆 をだまくらかしているんだよ」

 どう破綻したか。世界一飛び抜けて高い料金を徴収しながら、意外と貧乏財政、借金 やりくり経営の公団経理にメスを入れよう。


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