6 – 世界一の料金で世界一の赤字

世界一の料金で世界一の赤字(1)
 値上げが渋滞防止の特効薬

「物事を単純に考える」和合式発想方法に従うと、渋滞が慢性化してサービスが向上し ないのに値上げを繰り返す首都公憤の手口は確かにおかしい。

「いってみれば、首都高の現状は劇場や興業にたとえると”満員札止め”と同じでしょ う。デパートやスーパーならば”全商品売り切れ”となって笑いがとまらない状況だと 思うんです。それなのに値上げをするのですからね。”冗談じゃない”とユーザーが怒 るのは当たり前です」

 ある雑誌の編集者が私に原稿を依頼してきた時につぶやいた疑問である。

 満員札止め、全商品売り切れとの形容が頭にあったものだから、現場視察のため、首 都公団幹部と一緒に渋滞首都商を走っている際に、つい素朴な質問を発した。

「首都公団にとっては、お客さんがいっぱい利用してくれたはうがいいのか、お客さん が少しは減ってほしいと願うのか、どっちでしょう。客がふえれば、収入増になるけれ ど、渋滞もまた一層ひどくなる。客が減れば、収入減が痛かろうけれど、渋滞は緩和さ れる。公団としては、そのいずれを望むか、ホンネを語ってください」

 公団幹部が明かしたホンネは、どうだったか。

「首都高の評判が悪いのは、渋滞が慢性化し、定時定速性が守れないからです。一日の 利用車両が百万台を越すようになって、渋滞がますますひどくなる。それだけ悪評も高 まるこれが一日の利用車両八、九十万台に減るだけで、渋滞は意外と解消される。収入 減は好ましいことではないでしょう。ただ、車の流れがスムーズになり、お客さんから 喜ばれるのであれば、全体として利用者数が減ってくれるほうが、私たちにとっては嬉 しいですね」

 正直に答えてくれるのは、こちらもそれこそ嬉しいけれど、同時に唖然とさせられた 。お客さんの減るのを望む。そんなご大層な言い分があるだろうか。これぞまさに殿様 商法親方日の丸。結構けだらけ猫灰だらけ。収入増を期し、経営改善に努力する必要も ない。理事長以下の公団首脳部は何のために存在するのか、いぶかしく思ったものである。

 といっても、せっかくホンネを語ってくれたのに、その場でやっつけたのでは、以後 、タテマエ発言しか話してくれなくなる。だから「そういうものですかねえ」とため息 をつくにとどめ、窓外の渋滞に目を移した。
 そして頭の中で、はっきりと思い出した。渋滞解消策について、公団首脳と雑談を交 わしていた際に、真面目半分、冗談半分にこう打ち明けられたのである。

「料金を思いきって大幅に値上げするのが、渋滞解消に一番役立つ即効薬かもしれませ んよ。たとえば倍に値上げして、利用車台数が半分に減るとする。公団の収入は変わら ず、渋滞がほとんどなくなる。現実に実行するのは難しいでしょうが、検討する価値は あると思うのです」

 お客が減るのを望ましいと言い切り、公共料金であるにもかかわらず、客足を遠のか せる一手段として倍の値上げを検討課題とする。二つの発言に共通するのが、言葉は陳 腐ながら、「利用者不在」。少しでもお客の便宜をはかろうとのユーザーサービス精神 が、見事なまでに欠如している。

 そういう議論をしていたら、公団首脳に反論された。

「利用者不在なんてとんでもない。今の高速道路に一番欠けているのが、定時定速性の 確保。渋滞が解消し、定時定速性が守られるのであれば、通行料を値上げしたほうがい いとの要望を寄せられる利用者もいるんです。ただ、高速道路は今や最も公共的な施設 ですからね。料金政策によって、一部の利用者を締め出すわけにはいかない。利用しや すい値段に抑え、かつ定時定速性をどうして実現するか。我々の苦しいところです」

 ハード面での道路整備を進めるには、何十年もの長い年月を必要とする。しかも道路 整備計画が発表されると、周辺住民の反対運動が強まり、計画そのものが行き詰まった りする。

「道路づくりは孤立無援の状況で進められる。高速道路をもっと作れとの世論が少なく とも、東京にはありません。道路を作る立場になっては誰も応壊してくれませんからね 」

 道路整備による渋滞解消がこれからさらに絶望的になった時、利用面での制限が導入 されるかもしれない。悪夢のような思いにさせられるではないか。利用者をふやそうと 努力するよりも、利用者を減らすことが話題にのぼる。
 情けないけれども、これが高速道路問題のかかえる現実である。 経営状態を誰も把捉していないオソマツ

 私が浅井理事長以下の公団首脳に初めて会い、約束の二時間の倍以上もオーバーして 質問攻めにしたのは、六十三年二月九日夕刻から夜にかけてであった。公団首脳はどれ だけ失礼な質問を浴びせかけられても、怒らず誠実に対応してくれた。しかし応答のお 粗末さもまた、ひどいものだった。
 首都公団の財政状況、収入支出関係がどうなっているかを質問しても、応答が頼りな い。理事長以下の首脳部が実状をさっぱり掌握していないのは呆れるほどであった。
 公団の年間予算、決算規模、料金収入の総額、借金の累積額と金利負担、人件費や事 業費の推移等々経営の根幹に関わる問題について、回答がマチマチであったり、即答で きなかったりというていたらくだ。
 数字を覚えられないのであれば、骨格的な金額、金利、規模ぐらいは手帳に書きとめ ておくのが常識であろう。いや、経営改善に熱意さえ持っていれば、現状がどうなって おり、どこをどう改めたいと、スラスラ数字が口に出てきて当然。出てこないとすれば 、それだけで本当は、経営者失格である。

 民間企業の経営者で、自分が経営責任を持つ会社の経理内容に通じていない人が存在 しうるだろうか。公団取材の際、あまりにもおぼろげな回答内容に苛立って、つい毒づ いてしまった。

「失礼ながら、あなたがたは情けないはど不正確にしか事態を把握していないのですね 。どれだけの報酬を貰っているのか知らないけれど、それでよく経営トップの責任が果 たせると呆れます。仮にの話、ダイエーの中内社長に”おたくの年商はいくらですか。 パーヘッド(社員一人当たり)の売上げは? 借金総額と金利支払いについてはどうで しょう”と質問して、いい加減な反応をすると思いますか。あなたがたのように”ちょ っと待ってくれ、今すぐ調べる””担当者を呼んで答えさせます”と逃げるはずがない 。一円でも収入をふやしたい、支出を減らしたいと奮闘努力中の経営者であれば、端数 まではともかく、大づかみの数字についてぐらいは即答するはずです」

 公団首脳の好人物ぶりと、かつ救いようのなさはこう毒づかれても怒らず、「いや、 ホントにもうおっしゃるとおりで」とか「お恥ずかしい限りです」と相槌まで打つ始末 。その舌の根の乾かぬうちに、数字訂正答弁が追加されたりする。
 いかに頼りないか、いくつかの質疑応答を速記録から再現してみよう。

質問 今回の百円値上げにより、年間の収入増はどのくらいになるのですか。
回答 そうですね。年に三百億円ぐらいになるのじゃないですか。
質問 利用者が減らない前提のもとにですね?
回答 そうです。まあ中央環状線東側部分と川口線で合計約三十kmが新たに供用開通し
   ましたからね。全体としては一日の利用数が八万台ぐらいふえております。
質問 料金が百円値上げされたために従来の利用者がどれだけ減り、また供用新設道路
   の利用増によって、どこまでカバーするか、正確な数字はつかめないのですか。
回答 ええ。路線別の交通量を調べると、ふえたり減ったりして、どこまでが値上げに
   よる影響か、よくわかりません。基本的には料金抵抗があまりみられないと考え
   ています。

                 ×                 ×
 この質疑応答は、まだましなほうである。ただし、後日、和合氏に取材した際「値上 げ増収分が三百億円だって? おかしいな。公団がオレに説明した時には二百六十億円 だってはっきり言ってたけどなあ」と数字がおかしくなる。


世界一の料金で世界一の赤字(2)
 一日の利用台数もわからないのか

 首都高の値上げは普通車が百円、大型車は二百円だった。一日の通行車両・百万台の 九割強が普通車、一割弱(正確には7〜8%を前後する)が大型車である。従って年間を通 しての値上げ増収分は単純計算しても四百億円近くにならないとおかしい。
 それなのに「三百億円ぐらい」「いや二百六十億円」とてんでんばらばらな数字が出 される。首都公団がどっさりと渡してくれた大量の資料を読んでも、どれが一番正確な 数字なのか、肝心なところがよくわからない。たとえば「首都高速道路公団のしおり」 と題するパンフレットがある。「六十二事業年度収入支出予算内訳」の項目の中に「高 速道路料金収入」が一千四百八十九億七千八百万円と記述されている。年度途中の九月 十日からの料金値上げは予算編成当初からの既定方針だった。しかし決定以前のため、 料金収入予算内には、値上げ増収分が計上されていない。

 三月末で締め切った決算実績では、同年度の料金収入が一千七百七十億円となった。 予算オーバーの増収分は約二百八十億円である。増収分のなかには、首都高利用の単純 な台数増によるものが一日八万台平均として五千六百万円天利余。九月以降の七ヵ月間 を合計すれば、約百二十億円。そうすると料金値上げによる増収分は残りの百六十億円 であるとわかる。
 七ヵ月で割れば、一ヵ月平均の値上げ増収分が二十三億円と意外に少ない。単純に一 日百万台が百円増の料金を払うとすれば、一ヵ月の増収は計算上三十億円になるはず。  こうした数字の違いを、いろいろな角度から分析したり、考えるうちに、いくつかの  ”発見”をした。

 まず一番の基数になる一日利用台数がどれだけあるか。これが実は資料により、説明 する人により、またどの時点でとらえるかにより、実にマチマチである。
 浅井理事長は当方の質問に対し、公団の実績を自慢したいからであろう。一日百万台 突破をしきりに強調してみせた。

質問 一口に百万台と言われましたが、アバウト百万台ですか。既に上回るのですか。
回答 上回りますよ。昨年(六十二年)の暮には百三十万台という最高数字が記録され
   ました。一日に百万台がご利用いただく時代になったわけです。
質問 そうは言っても、土、日曜日には利用台数が減るのでしょう。
回答 そうですね。ウィークデーはざっと百万台です。九十八万台に下がることもある
   。金曜日がやっぱり一番利用数が多く、確実に百万台を越えます。そして土曜日
   がざっと九十万台、日曜日はもっと減って八十万台となります。いずれもアバウ
   トな数字ですが、一週間を平均すると九十五、六万台になるのでしょうかねえ。

                ×                   ×
 要するに”瞬間風速”としては一日百万台時代を迎えたわけである。しかし、通過車 両台数の基数として百万台を使うのは、少なくとも取材時点では、やや時期尚早とわか ってくる。現に公団発行の「しおり」によると、六十一年度の一日平均実績が八十五万 八千台、六十二年度の一目平均見込みが前半は八十六万台、三十km供用延長の影響が出 る後半になってようやく九十一万台と低目、低目の数字で計算をしている。
 しかもこれは首都公団の全延長200.9kmをまとめての利用台数。同じ首都高といって も、料金体系が東京線(普通車六百円)と神奈川線(同四百円)、さらに特定区間とさ れる平和島−羽田間、羽田−大師問(同二百円)と三つの別建てをとっている。東京線 だけに限っての数字となると十五万台ほど差し引く必要が生ずる。基数を簡単に百万台 とするわけにはまだいかないのだ。 日銭五億円の商売

 そのうえに回数券による複雑な料金割引き制度がある。11%引きの九枚綴りから20%引 きの二百五十枚綴りまで四種類の割引き。現金払いより回数券通行のほうが料金所での 一台扱い時間を普通の半分の五秒に短縮できるとか。料金所渋滞をいくらかでも解消で きる。公団としては回数券利用者をふやすことが渋滞防止策につながるとの考えで、回 数券販売所を増設したり、大口利用者への個別セールを強化中という。

 何のことはない。和合氏の五百円通行が大騒ぎされるけれども、首都高常用利用者で ある和合氏が二百五十枚綴りの回数券を購入すれば、五百円以下の一回四百八十円で通 れるわけだ。和合氏の目的が単に金の節約、料金の出し惜しみにあるとしたら、和合氏 はトラブルの多い旧料金通行に挑戦するよりも、回数券利用に切り換えるはずである。 そうしないところが、いかにも問題提起者、クレーム主唱者らしいとわかる。トラブル をあえて覚悟のうえで現在の高速料金制度に異議を唱え、制度を改めさせょうとファイ トを燃やすのである。

 それはともかく、回数券利用はユーザーにとっても、料金割引サービスを安けられる ほかに、料金所通過時のわずらわしさが減って便利である。営業用のタクシー、トラッ クなどはほとんどが回数券利用。三十七年度に回数券制度が導入された当初の普及率は8 %にすぎなかったが、今では43%に広がった。百台のうち四十三台までが現金払いでなく 、回数券を利用しているのである。公団ではガソリンスタンドなどでも回数券を買える よう、さらに普及を広め、とりあえずの目標を60%の普及率においている。現金払いよ り回数券利用客のはうが数多くなるようにしようとのこと。
 これだけ回数券利用者がふえると、一台の通行料を六百円で計算したのでは、現実と マッチしなくなる。値上げ以前の五百円単価で計算したはうが公団料金収入額の実態に 近くなるといえそうだ。

 こうして基数であるはずの一日百万台とか一台六百円などの数字がぐらつくために、 それを基本にした計算の結果もさまざまになる。おまけにどの時点で数字を抑えるかに よっても、大きな違いが生ずる。公団の「しおり」では六十一年度までの実績数字をも とに、一部六十二年度中の見込み数字を加えて、首都高の現状が紹介される。そして公 団首脳との質疑応答では、ただ今現在の状況がどうなのかとの話になりがちである。ど こでとらえるかの整理をしておかないと、チグハグなやりとりになって、曖昧な印象が 強くなる。 たとえば、こんな具合いである。

質問 公団の稼ぎっぶりの良さを評してよく”日銭五億円”といわれますよね。一日に
   黙っていても五億円の収入がある。羨しいほどに超優良企業というわけでしょう。
回答 年間収入で一千五百億円ぐらいだったのが、最近は一千六百億円ぐらい、いや、
   もう一千七百億円ぐらいになりましたかね。
質問 だけど、日銭五億円であれば、一年間では掛ける三百六十五なので一千八百二十
   五億円になる。一千五百億だとか一千七百億だとか、それも”ぐらい”と曖昧に
   言わず、日銭五億円の大企業らしく、きっちりとした数字を提示してほしいもの
   です。
回答 過去の経営実績では、そこまで達していない。最近になって一日の利用台数が百
   万台を越え、これから日銭五億円になろうとしているとご理解ください。
質問 それは理解していますが、一台の通行料が大型で千二百円、普通車で六百円、合
   計して百万台であれば、単純に計算しても、すでに日銭六億円以上となるじゃな
   いですか。どうもそこのところの話がよくわからない。
回答 そういう状況になったのは、六十二年度の後半からです。六十二年度を通しての
   数字ではございません。回数券での割引きあり、神奈川線の料金四百円ありで、
   文字どおりの日収五億円になるのは、これからの話です。

          ×                    ×
 六十三年度の公団予算に計上された料金収入額が六十二年度決算より八十億円増の一 千八百五十億円。三百六十五日で割ると、五億七百万円近くになる。首都公団が名実と もに日銭五億円を稼ぎ出す企業と胸を張れるのは。六十三年度以降と、やっとわかるの だった。


世界一の料金で世界一の赤字(3)
 料金収入が千七百億で元利払いが二千億

 問題はしかし、一日に五億円の収入をあげるのは結構な話だとして、逆に一日にどれ だけの支出を必要とするか。とりわけ借金がどれだけあり、その金利支払いが一日にど の程度にのぼるかである。公団首脳は即答して当然の、こういう重要問題にまで、驚い たことにしどろもどろ答弁を繰り返すのだった。

質問 公団のかかえる借金総額は、今、どのくらいにのぼるのですか。
回答 借金の残ですか。一兆七千億円ぐらいになりますね。
質問 それだけの借金をかかえこむと、金利払いはいくらぐらいになりますか。利率は
   どれほどに設定されているのですか。
回答 元金を返済するのと利子払いとで合計年間に二千億円を越える支出になります。
   金利はまあ、大体6%ぐらい。正確には5.何%かになりますけど、まあ6%ぐらいで
   す。
質問 ちょっと待ってくださいよ。料金収入が年間に千七百億円そこそこで、元利払い
   がそれを上回る二千億円とは驚いた。日銭五億円を稼ぎ出しても、その収入が全
   部元利払いで消え、まだ足りないことは、意外な話。超優良企業どころではあり
   ませんね。
回答 よくご承知のように有料道路の建設予算は、原則として借金でまかなう。建設費
   の年間予算のうち、ほんのごく一部、率にすると、3.79%になりますが、政府と
   自治体の出資金がある。それ以外は全額を借金に頼っていますからね。必要とす
   る金額の96%以上を政府の財政投融資、郵便貯金とか簡易保険に依存し、足りな
   い分は民間からの借入金でまかなう。それだけに元利払いも大変なのです。今年
   度の場合、建設費が一千七百億円もかかる。料金値上げがどうしても必要だった
   との当方の苦しい経営をご理解ください。
質問 一兆七千億円の膨大な借金があると、金利が1%下がるだけで百七十億円分の利子
   払いが軽減されるわけですよね。今、大体6%の利率といわれたが、この超低金利
   時代に高利率すぎませんか。和合さんも首都公団の負担する金利は高すぎる、金
   利を下げれば料金値上げをしなくて済むはずと指摘している。なぜ高金利である
   かの説明をどうぞ。
回答 公団の借金は、はとんどが長期のものですからね。過去の高金利時代の借金が残
   っているので平均すると高利率になるわけ。最近は金融がだいぶ緩んできまして
   、今月借りたのは5%と低くなっています。
質問 低金利時代になれば、過去の高金利ものを低金利に借り換える。支払い利息を少
   しでも減らそうと努力するのは、民間企業の場合、常識のはずです。公団はそう
   いう努力もしていないのですか。
回答 政府保証債とか政府引受債ばかりですからね。大蔵省が許可しない限り、首都公
   団が勝手に借り換えたりはできない仕組みになっているのです。十年ものの道路
   債券などはもう発行済みでして、途中で利率を変更するのは不可能です。

                 ×              ×
 説明を聞きながら、何とももどかしい思いにかられた。どういう利率のものが、どれ だけあるか、即答は期待できず、あとで文書回答を求めた。五十二年度から十ヵ年間の 借金の実態と金利がやっと明らかにされた。一番高いのは五十五年度の政府保証債。8.8 %の利率である。はとんどが7〜8%の高利ばかり。平均して「大体6%ぐらい」どころか、 実際には6.3%と部外者の私の簡単な計算でわかった。

 公団の「しおり」によれば、六十二年度の支出予算のなかで支払い利息は一千七十二 億円と記されている。公団説明の借金総額一兆七千億円とすれば、これだけの利息支払 いは利率が6.3%とすぐにはじき出されるではないか。
 高利率ものを低利率に借り換える。民間企業なら当然手がけることが、マンモス組織 の首都公団には通用しない。公団首脳と、その是非について何度か議論を重ねた。公団 内部でも借り換えの可能性を検討したという。

 結論は「現状のシステムを守るしかない」であった。過去の金利動向を調べてみると 、十年サイクルで金利が高くなったり、低くなったりと変動する。長い目で見ると、結 果は同じことになると説明する。

「大体が三十年の長い期間をかけて建設費を償還すること自体が、民間企業では考えら れない。公団だから手がけられる息の長い仕事。民間とはモノサシが違うわけ。借金を するにしても全金融機関を相手とする。簡単に返したり、借り直したりが出来ないシス テムになっている。第一、大蔵省や建設省が認可してくれない。住宅ローンを借りた人 なら、そう簡単に借り換えができないとわかるはず。途中で金利が動いても、じっとし ているのが長期借入金のあるべき姿」

 動かざること、山の如しといった態度である。公団の支払い利率が平均でどのくらい になるか、理事長以下の首脳がはっきりした数字を憶えていないのは、そういう”細か いこと”に関心がないせいとわかるのだった。 借金総額は年商の十倍

 以上のやりとりを知って、和合氏が憤りながら嘆いた。

「中小零細企業の私たちだって、今は5.75%の低金利でいくらでも借金できるのですよ。 貸し倒れの恐れがまったくない公団が、私どもより高い利率で金融機関に金利を払うの がどうしても理解できないし、許せない。どこにそんな必要があるのか。
 政府が道路建設に融資する際の金利は3%の低利ものとの定めがあるそうじゃないです か。6.3%の金利を全部3%にしたら、それだけで五百六十億円もの支出が節約される。百 円の料金値上げの増収より、はるかに助かるはずだ。値上げは、やっぱり間違っている んですよ」

 和合氏が代表取締役を務める和合ダイカストの年商がちょうど五億円。首都公団が一 日に稼ぎ出す収入を、和合氏は一年かかってようやく得るわけだ。組織の大きさとして は、まさに月とすっぼんほどの違いがある。しかし経営姿勢の厳しさでは、逆に公団首 脳のほうが、中小零細企業主の和合氏よりはるかに大甘だ。膨む一方の借金に対する考 えかたからして段違いである。

 和合氏は”倒産ライン”という言葉を使って首都公団に借金のしすぎを警告する。

「オレんところに百円の支払いを催促しにきた公団の課長と大喧嘩になった。その課長 がオレに言うんだよ。公団は今、三千億円の借金をかかえて大変なんです。だから百円 を払って下さいって。
 オレは、じゃあって聞いたよ。オマエんとこ、売上げはいくらあるんだとね。一千億 円ぐらいあるって説明してた。それでオレ、呆れて言ったんだ。年商分の三倍も借金し てるのか。それじゃあ、間違いなく倒産するぞ。オレたち個人の会社では借金の総額が 年商分まで増えると倒産ラインに達したと警戒される。銀行は危険視して、もう金を貸 してくれないよ。それを年商の三倍分も借金があるという。これはひどい、そんなこと で経営やっていけるのかって言ってやったんだ」

 賢明な読者は先刻お気づきのように、議論になるもとの数字が出たらめである。上が 上なら、下も下。公団首脳が経営の根幹的数字をつかんでいないのだから、和合氏説得 に派遣される中堅幹部が年商一千七百億円を一千億円と言い間違え、借金総額一兆七千 億円を何と六分の一の三千億円程度との認識しか持ち合わせないとしても、不思議では ない。
 借金総額が年商の三倍分どころか十倍にもなるのだ。倒産ライン突破どころの騒ぎで はない。

 和合氏に数字のミスを指摘したら、少しも驚かなかった。

「いや、公団幹部が口にする数字のいい加減さについては、オレもよく知っているよ。 だってオレに説明する時、人によって、いや同じ人でも場所によって数字がクルクル変 わるもの。
 公団の部長とテレビでやりあった時に公団の借金が一兆五千億円あると言ったんだ。 その部長がほかのところではオレに一兆一千億円の借金と言うんだよ。冗談じやない。 先日の金額と違うじやないかと文句をつけてやった。あれから借金を返したので今は一 兆一千億ですってシャーシャーしていたな。
 フーン、だけど本当は一兆七千億円も借金があるの。ひどいな、そいつは。理事長以 下トップ十人ぐらいの幹部に辞めてもらうしか、もう解決策になんか手をつけられない んじやないか」

 借りては返す借金地獄が永久に

 上から下まで公団幹部の認識もひどいけれど、それよりもっとお粗末なのは公団の経 営状況そのものである。
 世界一バカ高い通行料を徴収しながら、その料金収入は公団の全体予算のなかでわず か三割を占めるにすぎない。公団収入の過半、58.5%までが借金に依存する。サラ金生活 そのもの。設立された当初なら、借金依存がやむを得ないかもしれない。実際には、も う設立以来二十年になろうとする。借金をどんどん返済し、借金総額を減らしていかな ければならないはずの時に、減らすどころか、借金をますます積み増す。

 公団の「しおり」によれば、六十二年度の場合で一千二百五十億円ほどの借金を返済 したのに対し、新たな借金を、その倍以上の二千八百四十余億円背負いこんでいる。借 りては返す借金地獄である。
 収入の六割近くが借金依存であると同様、支出のほうも五割近くが借金の元利払い等 に充てられる。それでいて支出の中に占める高速道路建設費は一千五百七十億円にすぎ ない。わずかに31.5%である。
 くどいようだがもう一度繰り返す。六十二年度の新たな借金額は二千八百四十余億円 である。それでいて道路建設に投じられるのは一千六百億円に達しない。借金した金額 の55%しか道路建設に使われていないのだ。ということは、つまり、借金が道路建設以 外にも多額に流用される疑いが濃厚である。

 しかし、公団幹部と話をしていて借金しすぎの危機意識は感じられない。

「民間企業の感覚では確かに借金のしすぎでしょうね。だけど”借りては返す地獄”と は、私ども思っておりません。銀行からも優良企業だと誉められております。償還勘定 だけを見れば、順調に借金を返していますからね。要するに民間企業ではやれないこと 、民間企業にはなじまない事業だから、公団組織が担当している。そうご理解願いたい」

 自信にあふれた説明を聞きながら、借金地獄であるかどうかの回答は十年以内に出さ れるだろうと、私は思った。
 というのも、これから開通し、供用されるのは、通行量をふやすのが目的ではなく、 車の流れをよくするための道路がほとんどである。それでいて工事費は数千億円単位の ものがかかる。料金値上げで償還されるわけだが、新路線開通がこれまでのように料金 収入増につながるかどうかの予測がつかない。通行量がふえなければ、公団の借金財政 は、とたんに苦しくなるに違いない。道路建設費をはるかに上回る借金の積み増しを放 置していいのか。今後の大きな検討課題といえよう。

 高速有料自動車専用道路づくりの”憲法”とされる道路整備特別措置法は、借金をし て道路を建設し、完成後の通行料金徴収で借金を返済すると定める。借金は道路建設( 完成後の維持・管理を含む)のみに投じられるべきで、借金を返済するための借金まで は認めていないはず。借金返済を終了したかどうかに関係なく、道路完成三十年後の無 料解放化を義務づけてもいる。「道路は有料」は緊急整備を迫られる特定期間の例外措 置。借金を返済し終わったら直ちに、たとえ返済できずとも三十年後には「道路は無料 」の原則に戻るべしというのが特別措置法制定時の大原則であったはずだ。

 首都公団は、今もそのタテマエを崩していない。以下は、そのやりとりである。

質問 三十年後には無料解放の約束が本当に守られるのですか。
回答 はい。二一十年後には借金を全部きれいに返済するとの大前提で、その都度の料
   金をいくらにすればいいかを算定しています。
質問 だけど、じゃあ、どこの道路がいつ無料解放されるかを知りたい。一つとして明
   示されていないではないですか。実際には”逃げ水”のように永遠に先に延ばさ
   れ、無料解放が結局は実現しない。ユーザーが騙されているとしか言いようがな
   いと思うのです。
回答 首都高速道路建設の全体計画が終了した時点で、それから二十年後が無料解放時
   期と明示できます。しかし、その全体計画がいつ終了するかは、今申しあげられ
   ない。我々としては東側部分がやっと開通した中央環状線を早く西側部分にまで
   延長し、首都高速道路網の網の目効果を発揮させ、渋滞漫性化を解消したいと願
   っているわけです。
質問 中央環状線の全線が開通するのは、いつ頃になりますか。
回答 とりあえずは東名高速から入りこむ車群の受け皿とするため、渋谷の先の大橋ま
   でを昭和七十年開通にこぎつけるよう頑張っているのです。地元の人々がどこま
   で協力して頂けるかによりますが、予定より少し遅れるかもしれません。
質問 全体計画の一応の終了といえるのは、湾岸線にまで中央環状線がつながること。
   それはいつになるかとお伺いしているんです。
回答 申し訳ありませんが、今の段階でいつまでとはお約束できません。

                 ×              ×
 要するに「サァ、今日から三十年後には有料道路が無料解放されますよ。用意、ドー ン」と号令を発するスタート時点がいつになるか、時期を明示できないのである。スタ ートがいつになるかわからないのだから、ましてや、その先のゴールなど見えるわけが ない。少なくとも、現在この世に存在する人々が生きている間に有料道路の無料解放を 祝う日がくるとは、絶対にないと断言できる。それほどに首都公団の現状は絶望的なの だ。

 親方日の丸企業の公団のことである。予算や決算に、赤字を計上することはありえな い。不足分は借金でいくらでも補える。計上した予算をうっかり使い残すと、翌年以降 、大蔵省からカットされる。予算を減らされたくないというわけで、実質大幅赤字でも 気前よく金をばらまく。絶望的なうえに救いようがない。
 そして今は首都公団が世論の集中的なターゲットにされているけれど、実際にもっと 経営上の始末が悪いのは、兄貴分格の日本道路公団である。首都公団の料金値上げが、 かくも悪評を高めているというのに、日本道路公団は六十四年春の値上げを目指して着 々と準備中。図体が大きいだけに、日本道路公団の破綻のほうが国民への影響も大きい 。どう始末に悪いか、次に日本道路公団を俎上に載せよう。

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