3 – 高すぎる「瀬戸大橋」は大丈夫か

一年を待たずして償還計画が破綻

有料道路の通行料算定の難しさと微妙さ。それを今、はっきりと示しつつあるのが、六 十三年四月十日に開通した「瀬戸大橋」である。
岡山県の早島インターと香川県の坂出インター・三十七・三kmを結ぶ瀬戸中央自動車道 を普通車で走ると、片道の通行料が一台六千三百円。わずか二、三十分の走行時間である。
「いくら便利になったとはいえ、ちょっと高すぎるのではないか。瀬戸大橋を見物し、 走ってみたい気はするけれど、往復で一万二千円もかかるとは、考えてしまうなあ」とい うのが一般の受けとめようだった。

本州四国連絡橋公団(以下、本四公団と略す)は「児島・坂出ルート」の瀬戸大橋建設 に一兆一千三百億円の巨費を投じた。本四公団は六千三百円の通行料で一日に平均二万五 千台の車が通ると強気の見通しを立てた。三十年間では一兆七千億円を越す料金収入が期 待できるとの皮算用である。一兆一千三百億円の工事費のうち、上層の道路部分が六千四 百億円、下層の鉄道部分が四千九百億円。本四公団としては金利負担やその後の維持管理 費を含めて道路部分建設費の三倍近くの収入を三十年間で得ようと計算したわけである。

結果はどうだったか。
一日平均で二万五千台は通ってくれるはずの車が、開通後半年間の実績では、何と半分 近い一万三千台しか通らなかった。これとて夏休み中のもの珍しさドライブ、開通記念の 瀬戸大橋博覧会イベント等に支えられた数字。平常時に戻った九月の一日平均通行量は八 千六百台にとどまる。予定の三分の一。不人気ぶりがはっきりし、価格政策の失敗は決定 的である。

同じ瀬戸大橋でも下層部を走る鉄道。JR四国の予測では一日に五十八本の列車を走ら せ、一万四千人の乗客輸送が目標にされた。宇高連絡船運航時の乗客が一万一千人。三割 ぐらいはふえると読んだわけだ。
結果はしかし三割増どころか三倍増の大人気。六ヵ月の輸送実績は一日平均が三万四千 人に達した。
とにかく開通後半年間で鉄道を利用した乗客総数が五百九十四万人。自動車の通行量総 数が二百二十七万台。人気絶預の鉄道。不人気に泣く自動車専用道。斜陽の鉄道が、日の 出の勢いの自動車道路に完勝したのである。

理由はどこにあるか。道路通行料に比べて鉄道運賃の安さが人々を魅きつけたのだ。な にしろ岡山−高松間の運賃は一千二百二十円。既存の陸上輸送と同じ距離当たり単価では じき出された。瀬戸大橋の上を通るからといって、特別の料金が加算されなかった。自動 車通行料の五分の一以下の安さである。JR四国は料金を据え置くことで、逆に多数の乗 客を招き寄せることに成功。年間に百四、五十億円の収入を見込めることになった。本四 公団に十七億円の使用料、維持管理費を払っても、十分すぎる収益をあげられる。

通行料を高くしすぎた本四公団は、一年間の料金収入見込み五百八十億円を達成するど ころか、最悪の場合は二百八、九十億円どまりになりかねない。まさに惨敗である。こん なことになるのであれば、通行料をフェリー利用と同じ四千円程度にとどめ、目標どおり、 一日二万五千台の平均通行量を実現していたはうが、年間では百億円ほどの増収につな がった。現状では開通一年を待たずして机上プランの三十年償還が破綻した。六十年、七 十年かかっても、建設費を償還できないかもしれない。
三十年償還を実現するためには、公団のメンツを捨てて、通行料を大幅に値下げし、通 行量増大に望みをかけるしかない。

鉄道は好調、道路は不調

四国内部での高速道未整備ぶりも、瀬戸大橋の足を引っ張った。四国には徳島から愛媛 県大洲に至る二百二十kmの縦貫道、高松から高知県須崎に至る四百五十kmの横断道と立派 な高速道路網整備計画がある。しかし実際に完成し供用されているのは全体計画の一割・ 七十kmだけ。四国内の道路整備は日本中でも飛び抜けて遅れている。昔ながらの海上輸送 のほうが手っ取り早いほどである。瀬戸大橋が開通しても、その出入口である坂出イン ターにたどりつくまでが容易でない。

本四公団は瀬戸大橋開通による“大橋効果”を、さまざまに描いてみせた。まず時間短 縮による民間のコスト削減効果が年間に二百八十億円。本州と四国が陸路で直結されるこ とによる市場拡大、工場進出等の所得増加分が四国だけで一千七百七十億円、本州まで含 めると三千百四十億円といった具合いである。
定時定速性が確保され、通行料などの輸送コストが割安に維持される場合、大動脈であ る道路は確かに莫大な経済効果をもたらす。日本全体では高速自動車国道四千kmの供用で、 輸送時間の短縮効果、走行費の節約効果を金額に換算すると四兆円に達するとの試算もあ る。ただし、これはあくまでも道路提供側の自讃数字。高速道路が正常に機能し、輸送コ ストの削減に魅かれて利用者が高速道路を積極的に利用した場合に限られる。

瀬戸大橋開通六ヵ月間で明らかになったことは、通行料が割高で、部分的機能しか発揮 できなければ、利用者からものの見事にソッポを向かれる閑散ぶりである。“大橋効果” がさっぱりあがらない。
四国と中国・阪神地方を結ぶ瀬戸内航路は三十七の海運会社が合計で五十九航路の定期 旅客船やフェリーを運航している。なかで瀬戸大橋開通の直撃を受けたのは高松−宇野間 と西讃−中国間の二ルートだけ。愛媛−中国、高知−阪神、淡路−阪神間のルートなどは 貸客輸送量が前年を上回る盛況さ。瀬戸内航路全体ではわずか8%の輸送量減少に止ど まった。“大橋効果”の頼りなさがはっきりと現われる数字である。

大きな期待をかけられたにもかかわらず、瀬戸大橋開通後の惨状は、日本の道路行政に 数多くの教訓をもたらした。その影響は本四公団が建設中の神戸−鳴門ルートや尾道−今 治ルートの残る二つの本州・四国架橋路線にとどまらない。高速有料道路全体の通行料算 定、部分開通の是非にまで「同じ失敗を繰り返してはならぬ」教訓的効果を持つ。
なにしろ、モーターリゼーション社会にあって、便利で最優位に立つ道路と自動車が、 時代遅れのはずの鉄道、船舶輸送に完敗し、当面はまき返しの方法がないのである。

それにしても一つの素朴な疑問が浮かぶ。
鉄道は千二百二十円という格安な運賃で瀬戸大橋を渡れるのに、自動車だと五倍以上も 高い六千三百円の通行料を必要とするのは何故か。鉄道運賃には瀬戸大橋建設にかかった 費用が上乗せされず、陸上ルートの主要幹線運賃と同じ一km当たりの単価算定が可能な理 由はどこにあるか。同じ瀬戸大橋を利用しながら、一方の人気、他方の不人気をもたらし た料金格差の開きが大きすぎるだけに、疑問に思うのである。

道路関係者の強気が失敗の原因

その疑問を解く鍵は、鉄道関係者の弱気と慎重さ、道路関係者の強気と大胆さにある。
斜陽の鉄道は乗客減に悩み、どうしたら人気を挽回できるかと四苦八苦する。海上ルー トだからといって運賃を特別加算したら、乗客離れがますます進む。弱気のあまり、JR 四国や運輸省は瀬戸大橋線開業に際し、ウルトラC級の秘策を打ち出した。運賃に建設費 を反映させず、列車運行に当面必要なランニングコストだけで料金を算出したのである。 その結果が「陸上なみ」の格安運賃となった。

瀬戸大橋の鉄道部建設には四千九百億円の事業費を投入済みである。JR各社に分割さ れる以前の旧国鉄や運輸省は、この建設費償還を国鉄清算事業団に担当させることにした。 誕生したばかりのJR四国に返済能力があるはずもなく、重荷を最初から取り除いたので ある。
旧国鉄時代の累積赤字(債務)は総合計すると三十七兆二千億円。国家予算の三分の二 近くにのぼる巨大さである。うち七割の二十五兆六千億円が国鉄清算事業団の負担と決め られた。これから旧国鉄の用地を売ったり、いずれ上場されるJR各社の株式を売ったり して債務を返済していく。どうしても償却しきれないコゲつきが十四兆円になる見通しで ある。結局は国が税金を使い、補助金などの名目で、この赤字を消していく。

マンモス赤字たれ流しの国鉄の跡始末を、どうせ最後は国家が面倒をみるしかないわけ だ。JR各社をできるだけ身軽にし、過去債務は国鉄清算事業団に積み残す作業の中で、 青函トンネル開通にかかった建設費(七千億円。利子を含めての総支払いが一兆五百億 円)と瀬戸大橋の本四備讃線開通費用(六千三百億円)がそっくり国鉄時代のツケとして 事業団に回された。
国家だからこそ可能な“手品”である。客離れが進み、弱気な見通しに立つと、建設費 の自己償還とか受益者負担と言っておれなくなる。その弱気がプラスに作用し、鉄道人気 の回復、JR瀬戸大橋線の盛況につながった。
他方、道路を建設する側には、特別の措置を講じなくても自動車が積極的に利用してく れるとの強気の見通しがあった。通行料がどれだけ高くなろうと、便利な高速道路には自 然に客が集まるとの過信であった。建設費の償還主義、受益者負担の原則からしても、通 行料が割高になるのを当然視したのである。

しかし、一般の利用者には、そんな難しい理屈や複雑な背後関係が鉄道と道路の二つの 料金の間にあるとは、知りようがない。ただ表面に現われた鉄道運賃と自動車通行料の数 字の違いにびっくりする。そして「鉄道は安い。乗ってみようか」と気軽に考え「車の通 行料は高すぎる。走ってみる気にならない」と敬遠する。

「瀬戸大橋」通行料は値下げが妥当

考えてみれば、瀬戸大橋をどうしても車で走ってみたい場合には、自分で運転せずとも、 高速バスを利用すればいいわけだ。往復のいずれかをバスか鉄道にする利用方法が数多く みられる。
事実、車不入気の中にあって、瀬戸大橋開通に伴ない営業開始された四系統、一日に二 十二往復する高速バスは例外的に人気を集める。当初予測では一車平均二十人の乗客、料 金は岡山−高松問で一千五百円徴収すれば十分にペイすると算定された。バスの瀬戸大橋 通行料は九千五百円。二十人が乗れば一人当たりの負担は四百七十五円。鉄道運賃と違い、 その分だけやや高目となるが、一千五百円のバス代なら客を集められるとの計算だった。
結果は予測以上の人々が高速バスを利用した。六ヵ月の輸送実績では、一車平均の乗客 が二十九人。一日で一千三百人。鉄道利用の4%弱でしかないものの、半年間では二十三 万人が高速バスに乗り、瀬戸大橋のドライブを楽しんだ。
車の通行料がもっと安ければ、自分で運転して車を走らせる人々がバス利用にシフトし たのであろう。

鉄道運賃の一千二百二十円。バス運賃の一千五百円。これなら手頃な値段である。しか し車一台の通行料が六千三百円はいかにも高すぎて敬遠される。
常識的に考えて、極く当然のことが瀬戸大橋開通半年で明らかになった。
料金は請求する側が一方的に決めると世間で通用しなくなる。料金を払う側への配慮が 欠かせない。利用者が納得し、不満なく支払える金額の範囲内に料金をとどめる。料金決 定の際には強気一方ではなく、弱気が大切だと瀬戸大橋の上と下との人気の違いが教えて くれるのである。

強気感覚をぬぐい去れない道路関係者は、安すぎる鉄道運賃にケチをつける。

「鉄道には甘え、過保護がある。建設費を税金に頼り、ランニングコストだけで運賃を決 めるのが、本当はおかしいのだ。補助があれば、運賃が安くなるのは当然。建設費を受益 者負担により自前で償還しなければならない有料道路の通行料と比較されては迷惑する」

理屈ではそうかもしれないが、理屈だけでは解決がつかない場合がある。
強気から弱気へと道路関係者が発想を転換する時、瀬戸大橋の通行料は大幅に値下げさ れるのではなかろうか。
償還主義、受益者負担を掲げるだけでは、有料道路が運営できなくなったことを道路関 係者が認める時でもある。

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