第3回 「大の字おじさん」を生む非情の公団体質

●100円のために100万円の出費

今となって考えてみると、おかしなことがたくさんありました。
首都高速道路公団が、いつ、どこから来るのか、または来ないかもわからない私の来訪に備えて、常時50人以上の人数を備えて厳戒態勢を敷いたのは、その最たる例でしょう。
志村料金所はもちろん、大和料金所や池袋周辺の料金所に出現した、ヘルメットに黒マスクのものものしい若者たちが周辺の人々を驚かせました。
しかも、彼らのアルバイト料や、おじさんたちの残業手当てが1月で100万円をかるく越えたというのです。
これが、たった私一人のために用意された公団のメニュー。
たった100円の通行料金不足のために、です。
さらに公団は、このメニューを半年間維持し続けました。
不足料金の100円の督促状書留封筒にも驚かされました。
100円を徴収するために800円分の切手が5、6枚ベタベタと貼ってあるのです。
コスト意識のかけらもない。
一方で公団はマスコミに対して絶叫していました。

「これは和合たった1人のことであるっ!600円を払っている和合以外の100万人の利用者に申しわけない 私たちは通行料金の徴収義務があるのだあーっ!絶対に和合を許すわけにはいかない!あやつは犯罪者なのだあーっ!」などと、ほとんど絶叫マシン。
理論も理屈も全くない。
意味のない道徳教育みたいなことを延々と叫んでいます。
反応の過敏さに、こちらの方が驚いてしまう。
しかしいくら驚いたからといって、引っ込むわけにはいきません。
江戸時代の農民でもあるまいし、お上意識むき出しの敵に、「お代官様、後生だから年貢(通行料)を負けてくんろー」などとは口が裂けてもいえないのです。
へへーと頭を下げるわけには絶対にいかない、そんな光景は考えただけでも胸クソが悪くなる。
自分の方が絶対に正しい との双方の思い込みが激突し、日に日にエスカレートしていきました。
マスコミがはやしたて、野次馬の人垣ができるようになると、首都公団は何を勘違いしたか、「和合潰しの行動は全てが正義である。
必ず現場で阻止せよ」と指令を出しました。
かわいそうなのは料金所のおじさんたちです。
忠義を尽くすあまり、ついには一命をなげうってでも阻止しようとする者が出てきました。
フリーウエイウラブの会長(筆者)も会長で、怪傑ゾロかルパン三世の心境。日時はもちろん、使用するゲートまで指定して「止められるならやって見ろ」とばかり、あらん限りの知恵を絞って対抗していきました。

●パテライトをテカテカ回転させて

そして ついに最初の事件が発生。
その日、私は料金所を通過し、すさまじい怒号を後にして最後の追跡者を振り払い、愛車プレーリーを通常の速度に下げました。
あとは午後の高速道路を快適に飛ばすだけ。
大和料金所を過ぎて池袋方面には向かわず高松で降りる予定でしたた。
その時、けたたましいサイレン音とともにスピーカーが、「そこの大宮ナンバーの車止まりなさいッ 直ちに停止しなさい!」とがなり立てています。
「何じゃい」と思ってヒョイと見ると首都公団の車ではないですか。
工事車風の車がパテライトをテカテカ回転させて、にぎやかなこと。
「何様だと思っているんだ」などと思いながらも、「わかったわかった」というふうに、手を挙げて道路脇へ停止しました。
これからどうなるんじゃい、とワクワクしながら下車すると、ドカドカと公団職員たちも降りて来ました。
ズラリと私を取り囲んで、口々にわめきたてる様は、ピーチクパーチクとこれまたにぎやか。
グルグル回っているパテライトが舞台効果を盛り上げ、何か重大事件勃発といった雰囲気を醸し出す。
さしずめ人垣の真ん中の私が重大犯人というわけです。
これは敵役。私には全くのはまり役!あごひげにサングラスの怪しげな風貌は、事件の重大さをいやが上にも盛り上げる。
通りかかる車は例外なく、この光景を楽しむために速度を落とし、通り過ぎる一瞬に、物語を理解しようと身を乗り出していました。
まさか「100円の取りっこ」などとは誰も思いますまい。
公団職員はここぞとばかり口嚇泡を飛ばしてまくしたてます。
「何でお前は600円と決まっている場所を500円で通るのだ!他の100万人の皆さんに申しわけないと思わないのか!自分だけよければ他人はどうでもよいというのか。
卑劣な野郎だ!人の迷惑を考えたことがあるのか!首都公団で働いている我々の迷惑を考えたことがあるのかーっ!」。本当は、一番最後のことがいいたくて、意味不明の事柄を延々と言い立てる。
私は、「料金所の続きを、またやろうというのか」とあまりの新鮮味のなさにガッカリして難しい顔をして黙っていたら、恐れ入ったとでも思ったのでしょう。
職員の皆さんはドンドン興奮してエキサイトしていきます。

●俺を殺して100円払え

さあ、舞台もクライマックス。
頃はよしと、最も勇ましく最も太ったチンチクリンのおじさんが、「和合!どうしても通るというのなら、俺を殺してから通れーっ!」と鶴のごとく一声叫ぶや、次の瞬間驚くべき光景が出現しました。
このおじさんが、我が愛車プレーリーのまん前に、大の字となってドーンと寝てしまったのです。
この光景を想像して下さい。
パトカー宜しく、クルクル回るパテライト車があり、その前に並んだ民間車があり、そのまた前に公団職員の一群があり、一群の真ん中にあごひげを蓄えたサングラスの怪しげなる人物が、苦虫をかみ潰したような難しい顔をしてごう然と立つ。
そして何と、その足元に首都公団職員が制服のまま大の字で寝ているのです。
回りの人はかたずを飲んで無言でただ見ているだけ。
それが他でもない高速道路上で起きている光景なのです。
とにかく、おじさんの出現で重大事件は謎めいたサスペンスの模様を呈してきます。
興味津々の通行車の速度はますます遅くなる。
謎めいた光景の中には、説明できないことが多くあるものですが、通行車がいかに速度を落とし、通り過ぎる一瞬の時間を最大にしたとしても、その間、目の玉 をひんむくほど見開いて、脳細胞をガチャガチャに活動させたとしても、この事件の値段がたったの100円であるとは見抜けますまい。
さすがの私もあっけにとられ、しばらくは見ているだけで解決策が見つかりません。
5分・10分・・・・。そのままの状態で過ぎていった沈黙の時間を破ったのは、私の最も常識的な平凡な一声でした。
「おじさんも家へ帰れば奥さんの子どもさんもいるのだろう?つまらないことをするものではありません。起きなさい!」。
今度はおじさんは腕を組んで瞼を閉じてしまいました。
「聞く耳は持たん、テコでも動かんぞ」というふうです。
今度は同僚の説得が始まります。
「オイもうやめようや、こんなことをしてもどうしようもない。起きろ、起きろ」。
同僚の説得が2人3人と広がって、ついにおじさん渋々と起き上がりました。
私は、「じゃあ俺は行くよ」と職員の皆さんに手を挙げて挨拶をし、愛車プレーリーの人となると、職員の皆さんが心持ち黙礼をしているかのようでした。
しかしこれでもまだ、序章に過ぎない出来事なのです。
次回はついに警察のおでましです。
彼らは結局私に詫びを入れることとなってしまうのですが・・・・。

●組織のために命を捨てよ

さて、この「大の字のおじさん」事件には後日談がある、というより、重要なポイントが後日談にあったといった方が正解です。
さすがに腹の立った私は翌日、霞ケ関の首都公団本部へ怒鳴り込みました。
応接間に通されてお茶が出てきます。
現場とのやりとりとは裏腹に何故か本部の人たちとは話が弾みました。
「和合さん、500円通行はもう勘弁して下さいよ もう十分でしょう。私たちも一生懸命やっています」。
私は、「いや、今日はそんな話をしに来たのではありません。昨日こんな事件がありました」と一部始終を話し、
「念のために確認しますが、まさか公団では命を張ってでも和合を止めろと指示しているのではないでしょうね?
あとに残された家族のことは公団が面倒を見る、とでもいっているのではないでしょうね?
このままでは事故がおきる。いったいどういう了見なのですか!」と詰問しました。
公団側は当然、「和合さん済みません。これは私どもの行き過ぎでした。現場にはよく注意しておきます。
いくら何でも100円のために命を危険にさらさせるわけにはいきません」と返答すると思っていました。
案の定、今まで黙って聞いていた公団本部の人は目を輝かせ、「本当ですかッ?本当にそんなことがあったのですか?」と切り出します。
ここまでは、ほら、おいでなすったと思っていたのです。
「いくら何でもこれからは注意しなければならない。
まだまだ長い付き合いが続くのだから」と続くのだろう・・・・。
ところが、とんでもない答えが跳ね返ってきました。
「それはすばらしいッ!」・・・・な、なんだッ?
「今時、そんな骨のある男がいたのか!公団職員にはそんな素晴らしい男がいたのか!」・・・・そ、そんな馬鹿なっ。何だこれは?
それからの私は、100円不払いはそっちのけで、世の中の常識論を職員に延々と説明するハメに。
ところが、いくら説明しても理解し得ないのには困りました。
彼らは大の字のおじさんの偉業を私に理解してもらえないのを不思議がっているばかりです。

●官僚制の弊害極まれり

まるで価値観が違う。
広東語とフランス語で話をしているよう。
組織のためには命を捨てる。
何か高倉健の親分子分の世界と似ています。
私がひき殺したりしようものなら(するはずないが)、霞ヶ関におじさんの銅像が立ちそうです。
「大の字のおじさん」については、以後機会のある度に、多くの人の感想を求めてきましたが、先だって日本高速道路公団の公聴会の折にお話しした、建設省有料道路課の荒川さんも、「今時、随分根性のある人だなあ」と、先程の職員と同じ反応を示しました。
一方、フリーウエイクラブの会員は私と同意見。
「へえー 馬鹿じゃないの」。
「怪我をしようと思ってわざとやっているんじゃないの」。
若いマスコミ関係者は、
「行政側は国民感情がわかっていないのだ」。
「この異常さが理解できないなんて、恐ろしくなる」。
年期の入ったマスコミ人は、
「いや 和合さん こんなもんですよ」。
「これが官僚世界の最たるもんですよ」。
人生50年目にして初めて知った、この未知の世界は希望も未来も夢もありません。
あるのは馬鹿らしくもあり滑稽でもある、およそ我々とはかけ離れた不毛の非常識だけ。
絶望的なのは、彼らが優秀な官僚たち、とされ日本の国に絶大な影響を及ぼしていることでしょう。
何とかしなくてはならないが、さほど悲観したものでもありますまい。
時代の流れはまぎれもなく大きくカーブしているからです。
近年、正常へ正常へと時間の浄化作用が大きく作動しはじめ、歴史的に重大な出来事が世界で数多く勃発、世界の仮想敵国だったソ連さえが崩壊しました。
日本でも自民党一党支配が崩れ、1年間に4人もの首相が変わり、自社連立が政権を掌握するなど、よくも悪くも混沌としたカオスから新しい秩序が形成される時代なのです。
新しい時代の風が間違いなく吹いている。
その証拠に、今だに私は首都高速道路を500円で通行しています。
新しい時代の新しい風がそれを許しているのではないでしょうか。
最近は料金所のおじさんとは非常にうまくいっています。
徐々にではありますがファンも増えてきました。
しかし、この間は私のちょっとした物忘れのせいで随分怒られてしまいました。
「おじさん、申し訳ない。通行宣言書をきらしてしまった。今日はこの名刺で通らして下さい」と、 500円玉と名刺を料金所のおじさんに差し出すと、「やあ和合さん」と素敵な笑顔で迎えてくれたおじさんが、烈火のごとく怒り出しました。
「ダメダッ!あの紙(通行宣言書)がなければダメダッ!あの紙がなければ絶対にここを通すわけにはいかない!」。
おじさん、あの時はゴメン。   (つづく)

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