第4回 愛車を破壊する幻の志村料金所

●息子への社会勉強のつもりが

非常に優れた官僚たちではあるけれど、ある部分ではとんでもないアホである。
そのアホさが、目的達成のために膨大なエネルギーを垂れ流します。
1分間に3000回転もするレシプロエンジンを積んだ、機械文明の最高峰を行く自動車を人数に頼んで人力で止めようというのだ。
そのエネルギーが我々の通行料金や税金であったりするからかなわない。
当時10歳の長男を同乗させたことがありました。

窓ガラスに類々とへばりついて、凄い形相で口をパクパクさせているおじさん達に彼は何と、アッカンベーをして見せた。おじさん達に負けじとばかり、窓に顔をつけてやっていました。
おじさん一人一々にまんべんなく、実に丁寧に、実に忙しくやっていたのです。
子どもというのは凄いものだと思いました。
彼はサファリパークで、ヒヒの群れに車を囲まれたくらいの認識しかない。
かわいそうにおじさん達はヒヒになってしまいました。
「総君どう思う?」。最後の若者との別れた後、息子の感想を聞いてみると、実にシンプルな答えが返ってきました。
「あのおじさん達どうかしてるんじゃあないの、自動車を手で止めようとしているよ。
僕だったら車の前に丸太棒でもゴロンと置くよ。それで終わりだよ。今度はいつ行くの?」と景色を見ながら実に楽しそう。
子どもにもわかるアホさを、彼らは決して気づかない。
彼らにとっては重大なことなのだろうが、我々にとってはどうでもいいことに、「正義は我にありと」と錦の御旗を振りかざして、それこそ全力で汗を流すのです。
そんな彼らを見ていると、愛すべき奴らだと思う時もありますが、その汗が税金だったりするものだから腹が立つではないですか。
さて、この話にも後日談があります。
実は、この件に関しては他言無用との約束が総君とできていました。
言葉で確認したわけではなく、男同士の無言の約束。
私としては、彼の社会勉強も兼ねた教育の一環くらいにしか考えていなかったので、
「総君、あのおじさん達は一生懸命に仕事をしているつもりなのだ。
そして、頭からお父さんを悪者と決めてかかっているのだ。
将来、仕事を選ぶ時は決してお金を基準に決めてはいけない。その仕事が社会にどのくらい役に立つかを基準にしなければならない」などと、
いい気持ちで親父ぶっていたものです。
だがしかし、うまくいかないのが世の常で、いい気持ちはそれほど長く続きません。
ヒョンな事からこれが公となってしまったのです。
さあ大変、内外で賛否両論、カンカンガクガクの教育論が渦を巻く結果となってしまいました。
もちろんその渦中で善戦健闘したのですが多勢に無勢で、とてもかなうものではありません。
全くヨレヨレとなってしまいました。
いうまでもなく、「いくら何でも行き過ぎ」というものも含めて、圧倒的多数が反対派。
「すばらしい教育」といってくれた賛成派はごく少数でした。
賛成か反対が極端に分かれて、中間とか、どうでもいい、とかの意見がないことが特長でした。
読者の皆さんは賛否いずれでしょうか。

●公団の無謀に警察を呼ぶ

さて、高島平サファリパークが半年も続いたある日、ついに最後の事件が起きました。
ついに警察のお出ましです。
最終的には裁判へともつれ込む事件が幕を開けました。
勘違いをなさらないように。
首都高速道路公団の乱暴さについに堪忍袋の尾を切って110番通報したのは私の方なのです。
まことにおかしな図式ながら、あまりのお代官の無謀さに、恐れながらと隣村のお代官様に訴えた結果、お代官同士の対決となってしまいました。
さてさてどうなる事やら。善良なる市民の私めは只々恐れおののき、事の成り行きはいかに、と見守るばかりです。
心地よい乾いた風が車内を通り過ぎます。
ソロソロとでも動いていた愛車プレーリーは、料金所に近づくにつれてますます遅くなり、直線コースに入りおじさん達が見えてくると、完全に止まってしまいました。
なんと、料金を払い終わった車でさえ、動くことができないのです。
とにかく前後左右、車でビッシリ埋まっています。
自動車の群れ特有の、何ともいい難い騒がしさで辟易します。
考えてみると、まことに不思議な「高速道路」です。
「空は」と見ると何もありません。
あくまでも青く、永遠に続くであろう青さが深く広く、ただ空ばかりです。
人間の機械文明もたいしたことはない、いまだ空を征服できないでいる。
生活レベルでの利用が可能でなければ征服したことにはならない。
いつまでこんな地表をはいつくばる機械文明が続くのだろうか?鉄骨とコンクリートの世界とは早くおさらばしたい。
何の気負いもなく、ごく平凡にカモメみたいに空を飛ぶ日常を過ごしてみたい。
鉄腕アトムのSFの世界が来た時、空中自動車が世の中に受け入れられる値段は800万円程度かな?それこそ大ヒット商品となるだろうな。西暦2020年くらいかな?メーカーは多分、本田技研工業だろう。
などと、空想の世界に浸っていました。

●さあ、戦闘開始です

突然、メルヘンは途絶えました。
いきなりおびただしい数の公団職員が眼中に飛込んできたからです。
突如としてサイレンが鳴り渡ります。
右往左往、蜂の巣をひっくり返したような混乱ぶりです。
どういうつもりなのでしょうか、ビデオカメラが2台、左右から撮影しています。
さあ、戦闘開始です。愛車プレーリーも窓を閉めバックミュージックの準備をします。
今日はシベリウスのフィンランディアを用意しました。
重く、地をはうように静かな序曲が始まります。
名曲のメロディーに心身を浸していると、窓にへばりついている職員の顔が何か異次元のETに見えてきます。
厳かさの中にも軽快なテンポに変わったその時、今日は何かが違うことに気がつきました。
おじさん達の気合の入れようが、いつもと違い相当なもので、顔々がヒステリックに歪んでいます。
私は前の車にすき間のないようにピタリとついて前進する戦法をとるのですが、肝心の前の車が止まったまま動きません。
職員が何か頼みごとでもしているようで、やたらペコペコとお辞儀をしています。
「すみません、もう少しお待ちください」とでもいっているようです。
そこへ、どこからともなく公団の車が登場します。
例のごとくピカピカと回しているパテライトの華やかさで雰囲気が一変してしまいました。
前の車が前進する、公団車がバックして入れ替わる、という作業が手際よく終了しました。
気がつくと、後ろにも公団車がパテライトを回しピタリとつけています。
さあ、これで完璧にもニッチもサッチも行かなくなりました。
職員の皆さんの顔は実に晴ればれとして気持ちがよいほどです。
「どうだ、参ったか!」というふうに勝ち誇って実に楽しそう。
私は、「こりゃあ持久戦になるな。セブンイレブンでおにぎりでも用意するんだったな」などと食い意地が張ってきました。
「まあ、時間はタップリある。今日はここで夜明かしか」と、心はすでに夜明けのコーヒーに思いを馳せます。

●ワイパーもぎ取り、ミラーもねじ曲げ

フィンランディアは激しくフィナーレを迎え、そして沈黙しましが、静かな時間は長くは続きません。
勝ち誇った公団職員はプレーリーを叩くやら、ゆさぶるやら、お祭り騒ぎとなってしまいました。
とにかくどうなるかわかりません。
何しろ、いつもと全く違います。そのうちワイパーがもぎ取られました。
サイドミラーもねじ曲げられます。ワッショイ、ワッショイとエスカレートしていきます。
おじさん達とすれば、日頃のウップンが溜まりに溜まっていたのでしょう。
プッシューという大きな音と共に車が傾きました。
前輪右のタイヤの空気が抜かれたのです。
続いて左のタイヤも抜かれました。
万事休す。もう本当にお手上げです。
どうすることもできません。完敗です。
しかし、これはどう考えてもやりすぎではないのか。
この後、公団はどうするつもりなのだろう。
しゃあない、警察にでも電話をしてみるか、と恐れ多くも隣村のお代官様に直訴を致します。
「もしもし、警察ですか?私は和合と申します」。
「ああ、和合さんですね。どうなさいました?」。
「今、首都高でひどい目にあっています。タイヤの空気を抜かれて立ち往生しています。助けてください」。
「わかりました、すぐに直行します。それまで頑張って下さい(とはいいません)」。
そうです、たしかに警察はいいました。
「和合さんですね」と、昔から知っている口振りでした。
和合姓は電話でいうと必ず聞き返される、なかなか難しい名前です。
それを初めて話をする人が親しげに応対してくれました。
恐らく、この件に関して首都公団と沢山の打ち合せをしていたのでしょう。
恐らく公団は、「和合が・和合が・あの和合が!」と連発していたのに相違ありません。
それでなければ、こんな難しい姓に対して瞬時に応対できるはずがないのですから。
私は、「全く首都公団はフェアーではない」と憤慨していると、さすがに早い、サイレンも勇ましくパトカーが現場に到着です。

●料金所は通らなかったことに・・・・

さあ、問題はこれからです。
とにかく待てど暮らせどお巡りさんは私のところへは来ません。
公団職員と身振り手振りで何事かを打ち合せしているばかりです。
10分たっても20分たっても、そのままです。
ドアを開けて出ようとすると、「ダメダメ和合さん、危ないから出てはダメです」と大勢の職員に押込められてしまったので、乗車したまま身を乗り出して、 「お巡りさん、こっちだこっちだ。呼んだのは俺だよ」と叫ぶと、お巡りさんは、「チョット待ってください」というふうに手を上げて、軽い会釈をするばかり です。次の展開までもう暫く待たなければなりませんでした。
30分ほどたったのでしょうか、お巡りさんはやっと私の所へ来てくれました。そして彼はこう云ったのです。
「和合さん、申し訳ありません。ただ今、和合さんに対しての対応を本部と打ち合せ中です。まことに申し訳ありませんが、もう暫くお待ちください」。
「ふーん、だけどそんなに長くは待てないよ。難しいことではないよ。囲みを解いて私を通してくれればいいんだよ」。
「うーん、もう暫くお待ち下さい」。
お巡りさんは本当に申し訳なさそうに言い訳をしています。
仕方がないので、もう少し待つことにしました。
しかし、最後の待ち時間は短いものでした。
突如として、なんとJAF車が到着したのです。
曲ったサイドミラーを直して、ワイパーを交換します。
そして最後にそれこそ手際よく、タイヤに空気が入れられました。
さあ、これで元通りです。さすがに隣村のお代官様はやる事がちがう。たいしたものだ。
こうなるとフリーウェイクラブの会長は快調そのものとなり、とどまるところを知りません。
「ハイハイ前の車を退かしてください。通り道の邪魔になりますよ。時間がありませんからね、早く退かしてくださいよ」。
そこへまたお巡りさんが来ます。
「和合さん、今日は私に免じて600円払ってもらうわけにはいきませんか?」。
「いや、お巡りさん、警察もたいしたものだ。なかなかの計らいで感謝しています。が、それはそれ、これはこれです。600円払えというのは難しいことです」。
むげには断りにくい状況なので、慎重に言葉を選びながら意志の固さを伝えます。
すると、お巡りさん折衷案を出してきました。
「わかりました、和合さん。じゃあ、『今日は志村料金所は通らない』でどうでしょうか。職員の皆さんで誘導致しますので、ここから一般道へ出てくれますか?」。
このお巡りさん、なかなかの苦労人で、双方の顔を立てようという心が手に取るようにわかったので、私も渋々妥協したことにして若いお巡りさんの顔を立てました。
何か不服そうな顔の職員さんの人垣を沿って一般道へ出た時は、かれこれ3時間も費やしてました。
暫く走ると大和料金所の入り口が・・・・。
志村料金所は通らない代わりに、ここを通ろうと決めました。
一日のつじつまはどうしても合わせておかねばならないからです。
さあ、大和料金所に着きました。
これより今日一日のつじつま合わせを致します。
「おじさん、ハイ通行宣言書と500円 頼むよっ」。
「あッ!和合ッ!100円!この野郎ーっ!100エーン」。

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